2017年7月28日金曜日

神々を共有する 集団の共同

 闇夜の雷鳴が恐いのは身近な危険の予感よりきっともっと根源的な感覚に近いでしょう。
 その場で理由を語れる恐怖だったら、あまり恐ろしくはないかもしれません。
 けれど、出かけようとして、突然の雷雨に見舞われるのは、日ごろの行ないが悪いせいです。
 そういう理由づけはある程度責任転嫁できた気になって、いまの自分を責めずにはすみます。
 日々の吉凶を、神や霊のもたらす賞罰とすることは、説明できないことを説明できないままに、おさめます。
 なぜ、いま、自分が……。
 人類は、その謎を、解決できないままに、超越的存在に押しつけることで解決してしまう手法に賛同しました。

 自然現象などへのある種の畏怖や信仰のような感情は、ひとまず個人で完結したのちのちには、その感情を他人と共有するために、言葉が有効だったでしょう。
 そうして日常のできごとに対する定型的な解釈が、大勢で共有され集団の文化を形成します。
 知らない人間と遭遇・対峙しても、同じ文化をもつ者同士であれば、仲間と認め合いました。
 さらには同じ超越者を信奉する者同士であれば、裏切りへの罰も期待できるので、一致団結して協力もしやすかったでしょう。その意味で超越者は安心を与えてくれます。

 裏切り者を罰するためのコストは、神々が負担してくれるシステムなのです。
 そのためにも、日ごろから、信仰心はアピールしておかなくてはなりません。
 神々に直接、捧げるための儀式は、集団の安全とズルの防止および裏切り発生の際への先行投資ですから。
 惜しんではなりません。
 神や霊が、すべてを見ている、ということは、同時に大前提とならざるをえないわけです。
 信じるための推測と解釈は相乗的に作用することが、次のように説かれています。

あなたはまず、人々が神や霊の仕業として解釈している病気や事故の事例を聞き、次に神や霊がそういったことをするだけの力をもっているに違いないと推論する。当然ながら、これら二種類の表象は互いを強め合う関係にある。神を力のある存在として記述することにより、彼らが災いを起こすということがもっともらしくなり、災いの原因として記述することで、彼らが強大な力をもつということがありえそうに思われる。
〔パスカル・ボイヤー 著『神はなぜいるのか?』 (p.255)

 神々を共有する集団が形成されていっそうの団結を高めるために、言葉は必須だったでしょう。
 でも現代人のような発声機能を、人類が獲得した時期については、よくわかっていないようです。
 音声は化石にならないし、発話の装置として特徴的な器官もまた、化石として残りにくいそうなのです。

 およそ一五〇万年前に現れた手斧が、その後一〇〇万年以上も作られつづけたのは驚くべきことである。最初期のホモ・サピエンス Homo sapiens が約二五万年前に進化してきたのち、ようやくわずかながら道具作りの腕前が上がり、使う道具類にも変化が出てきた。しかし、脳が大きくなったいまと変わらぬ現代人類が約一〇万年前に登場したのちも、道具とその材料は概して古いままであった。技術革新の大波が到来したのは比較的近年、四万年ほど前のことである。
J. メイナード・スミス E. サトマーリ 著『進化する階層』 (p.387)

 言語の起原がいつごろであったかを突きとめることは、いっそうむずかしい。けれども前章で論じたように、過去四万年間に技術的発明の能力は飛躍的な増大をとげており、言語能力の最終段階がこの時期に現れてきたとすると、いちばん説明しやすい。…………
解剖学的には、人類は喉頭が下がって、発声できる音の範囲が増した。…… 化石の記録からこの変化がいつ起きたかわかればいいのだが、これがどこまで可能かについて、今のところ解剖学者は意見が分かれている。残念なことに、この情報を与えてくれるはずの舌軟骨は、ほとんど化石として残ることがないのだ。
〔同上 (pp.439-440)

 道具を作る技術が急速に進歩した 4 万年前より少し以前の、およそ 5 万年前には、アフリカから世界中へと人類は大移動したといわれます。
 その時点ですでに、強い集団意識が形成されていたでしょう。
 残された記録は、生き残りのために協力する大切さが共通認識としてあったことをうかがわせます。
 かなり離れた地点でも文化的な交流があったことが、推測できるらしいのです。
 同じ信仰をもった集団は、生き残るのに有利であったとすれば、共有された神々の概念はさまざまな適応力として作用したといえるでしょう。
 神々や霊への信仰や宗教は、生存戦略として、相当に有効だったと、そう考えることは不自然ではないとされています。


戦略的情報と神概念
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/strategy.html

0 件のコメント:

コメントを投稿