2015年12月28日月曜日

暁の星 ― あかつきのほし ―

黎明の子 〈 ベン・シャハル 〉


 今年も年の瀬が見えて、ようよう『聖書』の「イザヤ書」第 14 章に辿りついた。
 〈ルシファー伝説〉はここから始まる。
 ここでラテン語〈ルーキフェル〉のもとになっているヘブライ語は、これまで見てきたように、「ヘレル・ベン・シャハル」ないしは「ベン・シャハル」である。「ヘレル」は「輝く」とか「栄光の」を表現する語であって、それがいわゆる「ハレルヤ」となるのだが、また同時に「狂った・愚かな」というような意味をあわせもつ。

 このあたりを詳しく辞書で見るのは、年を越してからになるが、残りの「ベン・シャハル」で「黎明の子」を意味することは、今回、『新聖書大辞典』で確認した。

 それが〈七十人訳ギリシャ語聖書〉で「ヘオースポロス」と翻訳される。――以下、そのあたりの、こたびの確認済事項を、ここに再掲しておこう。

「ヘオースポロス」はギリシャ神話の神々のひとりで、「ポースポロス」に同じと、ある。
「ポースポロス」は、ローマ神話の「ルーキフェル」と同一視され、
「ルーキフェル」はいずれにせよ、《光をもたらす者》の意をもち、暁の明星なのだ。
「ルーキフェル」というラテン語は、「光+運ぶ」という合成語で、それが神話で「光を運ぶ者」となるのは必然ともいえよう。
「ルーキフェル」は、ギリシャ神話の「エーオース」=ローマ神話の「アウローラ(オーロラ)」の息子であり、「アウローラ」は〈曙の女神〉なのだから、――そういう次第で――
「ルーキフェル」は、〈〔輝ける〕曙の子〉となるわけだ。

 3 世紀オリゲネスという人が、『諸原理について』という本で、その「ヘオースポロス」に堕天使伝説を重ねる。
 その「ヘオースポロス」は、405 年、ヒエロニムスのラテン語〈ウルガタ聖書〉で「ルーキフェル」と翻訳された
 ヒエロニムスはまた、「朝方に昇った明けの明星[ルキフェル]は天から落ちました」と書簡に書いている。
 またそのころ、ラテン語聖書を見た〔と思われる〕アウグスティヌスが『神の国』で「明けの星なるルキフェルが落ちたとき」と書き記すという次第で、ついに「堕天使伝説」が、〈ルシファー伝説〉として始動することになる。

――が、神話から伝説が誕生するあたりのいきさつは、次項の話となる。一応、資料の半分程度はこれまでに固まっているけれども、話が拡散していく一方で、なかなかにまとまりがつかない現状なのでござる。


〈 暁の星 ― あかつきのほし ― 〉
http://theendoftakechan.web.fc2.com/nStage/Origenes.html

2015年12月24日木曜日

聖なる夜に大岡裁きをひとつ

その昔、イエスが処刑されるとじきに日が落ち、その日が終わった。


かように、昔むかしは、一日が、夕暮れから夕暮れまでなのでした。
ですからして、一日は、「イブニング」から始まります。
――これは、西欧のお話しです。

 その頃は、一年も、現在の暦の日付でいえば、3月25日から始まっていました。
 そして、その頃もいまも〈聖夜〉というのは、一般に〈クリスマス・イブ〉を指しますが、これは現在の暦の感覚では12月25日ではなく、前の日(24日)の夕暮れ以降を指しています。――が、その当時の常識では、前日の晩ではなく、もうお分かりのように、すでにその時には、12月25日が始まっていたのでした。

そういうわけなので、〈クリスマス・イブニング〉というのは、
12月25日が始まった瞬間からの、〈聖夜〉のことをいったものなのです。

 現在の一日ではそれが、まだ12月24日だというわけなのでした。
 その日の夜に、キリストと呼ばれたイエスが、誕生するのです。

――ここで唐突ですが。

 話は変わって、『聖書』を読んでいると、大岡裁きの見事さを思い出すひと幕もございます。
 そのことを対比させた、読み物などもありまして、すると――、

大岡越前は、講談本の人情話に名前を使われただけなのに、
奉行として落第だなどと、云われる始末でございます。


ソロモンの知恵 VS. 大岡裁き
http://theendoftakechan.web.fc2.com/atDawn/justice.html

2015年12月21日月曜日

〈ディアボロス〉という『聖書』のギリシャ語訳 と……

ヘブライ語の〈サタン〉は『七十人訳ギリシア語聖書』では、
多くは〈ディアボロス〉と意訳されていますが、
〈サタン〉あるいは〈サタナス〉というギリシャ語は存在しており、また、
ラテン語『ウルガタ聖書』では、
〔ギリシャ語聖書だけでなく、ヘブライ語の原典を参照しているため、〕
そのまま〈サタン〉と音写されていることがあります。

『ウルガタ聖書』のはじめに〈サタン〉が記述されている箇所を、
今回は〔ラテン語・英語・日本語・ギリシャ語・ヘブライ語で〕引用してみました。


サタン ⇒ ディアボロス 〈 diabolos 〉
http://theendoftakechan.web.fc2.com/atDawn/diabolos.html

2015年12月15日火曜日

スピノザの《神》 と ミルトンの〈摂理〉

今回は 2015年11月27日金曜日
― 神 もしくは 自然 ―  〈 God or nature 2 〉
http://theendoftakechan.web.fc2.com/nStage/Spinoza.html
の続きになります。が――

 スピノザの謂うところの《神》の概念を見直すこととなりました。
 そうこうしているうちに、同時代を生きた人でイギリスの革命戦士でもあった思想家のミルトンのことが思い起こされたのです。

● ミルトン [ 1608 ‐ 1674 ] 
● スピノザ [ 1632 ‐ 1677 ] 

 これまで見てきたように、イングランドの清教徒革命では、
1649 年、国王チャールズ 1 世が斬首された、
という経緯があります。
 その首謀者クロムウェルは、1660 年の王政復古の翌年、
1661 年、墓から引きずり出されて、八つ裂きにされたうえで、さらし首、
ということにあいなりました。
(詳しくは、先だっての「〈神の摂理〉と清教徒革命」のページにあります。)

 この堕地獄の戦乱の嵐を生き残った〔クロムウェルのラテン語通訳のポジションにいた〕、ミルトンの夢見た〈千年王国〉は、その後の著書、『失楽園』と『複楽園』に、記されているのだと思います。

 その『失楽園』の邦訳文に目を通すと、〔これから調べようとしている、〕魔王〈ルシファー〉の名は、二度出てくるようです。
 その、ミルトンの思想に大なる影響を与えたと思われる、ダンテの『神曲』にも、ルシファーの名は、〈ルチーフェロ Lucifero 〉として、刻まれています。

ダンテ『神曲』は、先だっての千年紀の最高の文芸作品らしい、のですが……。

堕天使ルシファーの起源を調べる、資料調査の導入として、今回は、
17 世紀の同時代における、スピノザの《神》からミルトンの『失楽園』をみると。

いうことで……。


〈天〉と〈地〉の記
http://theendoftakechan.web.fc2.com/nStage/Milton.html

2015年12月10日木曜日

失われた楽園 と 堕天使の伝説

 その名を、ラテン語で、“Lucifer” という

 ギリシャ語では、“phosphoros” で、ヘブライ語では、“heilel” だとある
 それは「光輝くもの」という意味の通常の名詞を示す。
 英語の “lucifer” はラテン語起原であり、「光を運ぶ者」が転じて、「明けの明星」を特に指し示す。

『聖書』の堕天使伝説は「創世記」を起源とし、外典「エノク書」に結実する。
そこに至る過程ではまだ、ラテン語〈ルキフェル〉の名は論外だ。

そもそも新約聖書は、ギリシャ語で記述されているが、
旧約聖書の言語はヘブライ語であり、その権威あるギリシャ語訳が
「七十人訳(しちじゅうにんやく)ギリシャ語聖書」と、いうことらしい。
『七十人訳ギリシア語聖書』という本邦初訳のシリーズもある。
ラテン語聖書は、他の言語であるそれらの原典からの、〔そのような〕翻訳聖書なのである。
そういう次第もあって、ラテン語〈ルキフェル〉が、ヘブライの天使の名であろうはずもない

 それがなぜ、魔王ルシファーとして世界に名を馳せたのか。
 ――伝説のルシファーとは、「智の天使」らしい。
 原典としての『聖書』を重んじつつも、ヘブライ語よりもギリシャ語聖書に拠ろうとし、なおそれよりも、みずからの日常言語であるラテン語で、知識ある権威によってその教説が形成されてゆく過程で、堕天使ルシファーは誕生する。
 みずからの言語を《神》の民の言語よりも、中心に考えてしまったせいだ。
 知の権威による誤読と、〔さらに〕また、それらの思い込みによる、追随が原因であるには違いない。
 ――いつの世も、同じなのだ。
 堕天使ルシファー伝説そのものが、その「人の高慢」に起因する〈神話〉なのだ。
 その、魔王誕生の経緯[いきさつ]を、これからしばらく見ていくことにしたい。

17 世紀、フランシス・ベーコンが繰り返し訴えたことにも見られるように、
高慢が標準装備された人類には、「楽園喪失」の神話が似つかわしい。
それは、責任転嫁の原理が適用されて、堕天使の神話を生み出した。

 あたりまえのことなのだが、悪いのはオレではなく、諸悪の根源なのである。
 我が国、日本には「東大生は自分の間違いを認めない」という、神話すらある。

――
『聖書』の「レビ記」には最初の〈スケープゴート〉の記述がみられる。
〈贖罪の雄山羊〉に民族の罪をなすりつけて、荒れ野に放つというものだ。
まったく、キリストといわれたイエスがそうしたように、全人類の罪を一身に背負って死ぬのである。
そしてその〈スケープゴート〉を受けとる〈魔神〉がアザゼルだといわれている。
『聖書』の「レビ記」には〈アザゼル〉の名が記されていないという見解がみえるのは、
みずからの言語である英語『聖書』を、中心に考えた結果であろうと、推測される。

そのアザゼルは、ルシファーよりも早く、堕天使の首長となり、
ダンテの『神曲』よりも先に、暗い地下の牢獄に縛りつけられている。

 そのことが書かれた「エノク書」の思想は「新約聖書」にも影響を与えたというが、やがて外典として姿を消した。
 それが、再発見されて、脚光を浴びることにもなる。

今回は、邦訳の「エノク書」を概観し、そして『聖書』に書かれたアザゼルの記述の該当箇所を、
日本語、英語、ラテン語、ギリシャ語、またその名称の記述部分に限定されるがヘブライ語の原典を、
引用文献として用いた。
 ↓

堕天使アザゼル
http://theendoftakechan.web.fc2.com/atDawn/Henoch.html

2015年12月3日木曜日

織田信長の「虫メガネ」

織田信長が持っていたのは「遠眼鏡」ではなく「虫眼鏡」である


 遠眼鏡[とおめがね]は、また遠目鏡とも書く。望遠鏡のことである。
 その「望遠鏡」は江戸時代、徳川家康への献上品目にすでに見受けられる。おそらくはそれが日本にもたらされた最初の望遠鏡であり、日本側の記録では靉靆 [あいたい]という言葉が用いられている。これは「メガネ」を意味する。長さ一間[いっけん]= 1.8 m[メートル]ほどの巨大なものであった。

 また一方、戦国時代に日本に伝来した「メガネ」は、老眼鏡であり、遠視矯正用のレンズは一般に「凸レンズ」と決まっているので、それならば「虫メガネ」と同じ形になるわけだ。
 だからつまり、
織田信長が持っていたのは「遠眼鏡」ではなくどちらかというと「虫眼鏡」である、ということになる。

 望遠鏡について調べていたら、そういうことになった。
 その「望遠鏡」を家康に献上したのは、イギリス人らしい。

1608 年、オランダで望遠鏡が特許許可される。
1609 年、ガリレオ・ガリレイがその噂を聞きつけて、さっそく自作してみる。
1610 年、ガリレオが天体観測をもとにした『星界からの報告』を出版する。
1613 年、ガリレオ式の望遠鏡が、日本にやって来る。

 なんと、年表にすると。望遠鏡は西欧で発明されてから、わずか5年で、日本にまで到来している
 ヨーロッパの一部学者のあいだではいまだ、「望遠鏡は悪魔の発明品」とばかりに恐れられていた時代のことである。
 自分たちの立場を危うくするのは恐るべき悪魔の仕業に決まっているのである。
 ちなみに、オランダでは、望遠鏡は軍需品扱いだったらしいが、家康が望遠鏡を手に入れた、その翌年の「大坂の陣」に望遠鏡を持ち出したという記録はないそうだ。

 そういえば――。
 こたびの、そもそもの最初は、「惑星」という日本語の起源について調べ始めたらなぜか徳川吉宗に行きついた、という話のはずであった。


【惑星】―― 天体望遠鏡と徳川吉宗 ――
http://theendoftakechan.web.fc2.com/atDawn/planet.html