2021年12月25日土曜日

ミトラス教と冬至の救世主伝説とマギ

 その昔、ローマ帝国では、

274 年に、アウレリアヌス帝が太陽神の宗教を国教化し、

12 月 25 日「不敗なる者の生誕の日」(Dies Natalis Invicti) が国の祭日とされて、

これが、クリスマスの起源となりました。


 当時のローマ周辺で、太陽神の宗教であるミトラス教が盛んだったのです。が、

その後、コンスタンティヌス帝は政治的な理由で、キリスト教徒を弾圧するのはやめて、

313 年に「ミラノ勅令」によりキリスト教信仰の自由を保証。

325 年に「ニカイア公会議」を招集。


 そしてついに「ニカイア公会議」の結果を得て、

354 年には、ミトラス太陽神誕生の日と伝承される冬至が、キリストの誕生日として制度化されたようです。


12 月 25 日は「不滅の太陽の生誕日」(Natalis Solis Invicti) とも、いわれています。


 やがてローマ帝国を再統一したテオドシウス帝が、キリスト教をローマの国教にしたのは、392 年のことでした。


 ◯ ここに登場する〈ミトラス神 (Mithras) とは、

ゾロアスター教では〈ミスラ (Mithra) とも〈ミフル (Mihr) ともいわれ、

インドの『リグ・ヴェーダ』では〈ミトラ (Mitra) と、呼ばれる神のことになります。


 そしてローマの「ミトラス教(ミトラ教)」は、『プルタルコス英雄伝』に最初の記述があります。

―― 引用します。



ちくま学芸文庫

『プルタルコス英雄伝』

〔プルタルコス/著 村川堅太郎/編 1996年10月09日 筑摩書房/発行〕


ポンペイウス 〔吉村忠典/訳〕

 (p.94)

また彼らはオリュンポス(1)で異国風の犠牲式をとり行ない、さまざまな密教の祭祀をも行なったが、なかんずくミトラ教は、彼らが最初に輸入したもので、今の世にまで伝えられている。

 (1) 有名なオリュンピアでもオリュンポス山でもなく、小アジア南岸のリュキア地方にある小邑。



 ◎ この記述の前後に「ミトリダテス戦争」と呼ばれる戦争の様子が描かれており、それは紀元前 1 世紀のこととされています。



中公新書 2523

『古代オリエントの神々』

〔小林登志子/著 2019年01月25日 中央公論新社/発行〕


 第一章「 4 ミトラス神 ―― 変容した太陽神」

 (pp.86-87)

 前一世紀前半には、アナトリアの地中海岸、特にその東部に位置したキリキア地方には海賊たちの拠点があった。多くの海賊たちの出自はヘレニズム諸王国の軍人たちであって、彼らが仕えた王国は紀元後一世紀までにはローマ帝国領に組み込まれてしまい、軍隊は散り散りになってしまう。敗残兵たちの中には身分の高い、教養のある者もいたが、アナトリア高原の盗賊や地中海東部の海賊となりはて、ローマ軍と戦った。

 中でも、ポントス王国(前三世紀前半~前六四年)のミトリダテス六世(在位前一二〇~前六三年)はローマのアジア侵攻に抵抗し、しぶとく戦った。この戦いはミトリダテス戦争(前八八~前八五、前八三~前八二、前七四~前六四年)と呼ばれ、三次にわたる長期戦だった。一時は挽回したものの、ポンペイウスの前に敗退し、ミトリダテスは自殺した。



 さて、新約聖書の「マタイによる福音書」で星に導かれてエルサレムにやってくる

占星術の学者たち》というのは、ラテン語聖書では《 Magi 》と書かれていて、

原典のギリシャ語聖書では、《 μάγοι 》と記述されています。



『聖書 新共同訳』

 新約聖書「マタイによる福音書

2. 1-2

 (p.2)

 イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」



『ギリシア語 新約聖書釈義事典 Ⅱ』

〔新井献 H.J. マルクス /監修 1994年05月10日 教文館/発行〕

 (p.433)

μάγος, ~ου, ὁ [magos] 魔術師、占い師、占星術師、博士

 新約に 6 回見られる。マタイの幼な子[イエス]の物語( 2:1, 7, 16[ 2 回])によれば、「占星術の学者たち/賢者たちが東の方から (μάγοι ἀπὸ ἀνατολῶν) 」( 1 節)、生れたばかりの幼な子を拝むためにエルサレムに来る( 2 節)。

 μάγοι は、ペルシアの宗教の中で祭司の職に就き(ヘロドトス Ⅰ 101 )、天文学ないしは占星術に携っていたメディアの一部族の名前に溯る。



NESTLE-ALAND “ NOVUM TESTAMENTUM LATINE ”

EVANGELIUM

SECUNDUM MATTHAEUM 2, 1–2

 (P. 3)

 Cum autem natus esset Iesus in Bethlehem Iudaeae in diebus Herodis regis, ecce Magi ab oriente venerunt Hierosolymam 2 dicentes: «Ubi est, qui natus est, rex Iudaeorum? Vidimus enim stellam eius in oriente et venimus adorare eum».




 ◎ ここでマギの立場を考慮するなら、救世主として、ミトラ神を想定していたようでもあります。

 そして紛れもなく、クリスマスの日付設定には、ミトラス教の太陽神の誕生日が用いられているということなのです。



―― その他の資料を参照・引用したページを、以下のサイトで公開しています。


ミスラとミトラとミトラス教

http://theendoftakechan.web.fc2.com/eII/amrta/mithra.html