2017年7月15日土曜日

粘土の結晶進化から DNA 不要の複製子へと

 前々回の引用文の最後に、粘土から RNA という物語がありました。

二〇世紀の末に、ジム・フェリスらは、モンモリロナイトのもう一つ有益な性質を明らかにした。彼らはそれが自然発生的に小さな RNA 構成要素を寄せ集めて、五〇ヌクレオチド以上の長さの RNA 鎖につなげることができるのを発見したのである。
〔アンドレアス・ワグナー『進化の謎を数学で解く』 (p.77)

 原著は、2014 年に刊行され、日本語版は、2015 年 3 月に文藝春秋から出版(垂水雄二 訳)の運びとなった邦訳書です。
 この引用文中に出てくるモンモリロナイトという粘土の名は、1986 年のリチャード・ドーキンス 著 “THE BLIND WATCHMAKER” にすでに見ることができます。その最初の日本語版は『ブラインド・ウォッチメイカー』( 1993年 早川書房)として、上下二分冊で刊行されたようです。

たとえば、モンモリロナイトというかわいい名前の粘土鉱物は、カルボキシメチル・セルロースというあまりかわいくない名前の有機分子が少量存在すると壊れてしまう性質をもっている。ところが、カルボキシメチル・セルロースの量がもっと少なければ、まったく逆の影響を及ぼして、モンモリロナイト粒子どうしが結びつくことを助ける。別の有機分子のタンニンは、泥に穴を掘りやすくするために石油工業で使われている。採油業者が有機分子を使って泥の流れや掘りやすさを操作できるのなら、累積淘汰が自己複製している鉱物に同様のものを利用させるようにみちびいてならない理由はどこにもない。
〔リチャード・ドーキンス『盲目の時計職人』日高敏隆 邦訳監修、2004年 早川書房 (p.257)

 モンモリロナイトについては、他の邦訳書でも最近のもののなかに、記述を見ることができましたが、日本人による一般向けの著書では未確認です。
 ところで興味深いのは、このあとにつづく、SF 的な展開です。

 私は『利己的な遺伝子』で、人間は現在まさに新たな種類の遺伝的な乗っ取りの入り口に立っているのかもしれないと推理した。DNA という複製子は自分たちのために「生存機械」、つまりヒトも含めた生物の体を組み立てた。体は、その装備の一部として搭載型コンピューター、つまり脳を進化させた。脳は、言語や文化的な伝承という手段で他の脳と交信する能力を進化させた。だが、文化的な伝承という新たな環境は、自己複製する実体に新たな可能性を開いた。新しい複製子は DNA でもなければ、粘土の結晶でもない。それは、脳あるいは、本やコンピューターなどのように脳によって人工的につくり出された製品のなかでだけ繁栄できる情報のパターンである。
…………
ミーム進化は、文化的進化と呼ばれる現象に現われている。文化的進化は DNA にもとづく進化より桁違いに速く進むので、「乗っ取り」ではないかと思わせるほどである。新しい種類の複製子の乗っ取りがはじまっているのなら、その親である DNA を(ケアンズ=スミスが正しければ、その祖父母の粘土も)はるか後方に置き去りにするところまで進んで行くだろうと考えられる。そうなるとすれば、コンピューターが先頭に立つのは確実だと言えるかもしれない。
〔同上 (pp.258-259)

 聖書物語は、暗喩(メタファー)として続いているようです。
 生命というものの第一義が「増殖する(ふえる)」ことにあるとするなら、その行為主体(エージェント)は必ずしも有機化合物でなくとも、さしつかえないでしょう。
 ならば、「いままではこれでいけた」という理由だけで、DNA にこだわらなくとも、有機的生命体よりもずっと耐性の高い機械の〈ミーム・マシーン〉であって、いっこうにかまわないわけです。
 人工知能の開発は、まあ、順調なようですし。
 進化ゲームの行方(ゆくえ)は、予想もつきません。


新しい表現型: 加速する進化 Ⅲ
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/games/phenotype.html

0 件のコメント:

コメントを投稿