2017年6月9日金曜日

交叉する遺伝子

 遺伝子の説明として、「染色体に含まれるもの」と、いうのは正しいらしい。
 遺伝子を構成する分子が DNA ということになる。
 DNA というのは、染色体の重要物質で遺伝情報を持つ。
 遺伝情報は広辞苑に「遺伝によって、子孫へまたは細胞から細胞へ伝えられる情報」とあり、DNA や RNA の塩基配列の中に符号化されて存在する、と説明されている。
 一方、遺伝子 (gene) は、生物の個々の遺伝形質を発現させるもとになるもの、と説明される。その実体は DNA 〔一部のウイルスでは RNA 〕の分子であり、染色体上の一定の区画で、生殖細胞を通じて遺伝情報を伝えるものである。云々。

  DNA (deoxyribonucleic acid) デオキシリボ核酸の略称。
  RNA (ribonucleic acid) リボ核酸の略称。

 有性生殖では、雌雄がそれぞれの染色体を持ち寄って、新しい一対の染色体を合成することとなる。
 そのために、まず生殖細胞では「減数分裂」によって、染色体の数を最初に半分に減らす必要がでてくる。
 半分と半分を合成してできあがった、ワン・ペアの染色体は、つかず離れずの生涯を送るが、「減数分裂」の際にはいったん合体してから、ふたつに裂ける。
 ここが、有性生殖の醍醐味となる。
 ワン・ペアだった染色体の一部が、合体・交換されて、生殖細胞には、それまでなかった、DNA の組み合わせが存在することとなるらしい。

 この過程は「交叉」と呼ばれている。交叉の実務はそこにある情報と無関係に、だた位置関係だけを頼りに行なわれるらしい。
 たとえば、同じ長さだけども色違いの二本のテープを並べ、その対応する位置だけを基準に、何度か切り貼り交換して、つぎはぎになった、新しい二本のテープを作ることになる。だから、それが音楽テープなんかだと、曲の途中で、いきなり違う曲が途中から流れ出す事態ともなりかねないと、予想される。
 この予想が、どれほど事実に即しているかはわからないけど、リチャード・ドーキンスの本には、次のように書かれている。

たしかに、「タンパク質連鎖メッセージの終止」と「タンパク質連鎖メッセージの開始」には、タンパク質メッセージと同じ四文字のアルファベットで書かれた特別なシンボルがある。これら二つの区切りのマークの間に、一個のタンパク質をつくるための暗号化された指令がある。望むなら、単一の遺伝子とは、開始と終止のシンボルの間にあって一個のタンパク質連鎖を暗号であらわしている一連のヌクレオチド文字である、と定義することもできる。シストロンという語は、このように定義される単位としてつかわれており、一部の人々は遺伝子ということばとシストロンということばを同じものとしてつかっている。しかし、交叉はシストロン間のしきりをまもらない。シストロン間と同様にシストロン内でも裂けることがある。
〔『利己的な遺伝子』日高敏隆(他)訳 1991年 紀伊國屋書店 (p.53)

―― それが稀な現象であるにしても。
 遺伝子の実体であるとされる DNA は、遺伝情報の途中で混ぜ合わすことが可能なのだ。
 そのように解釈できる。
 遺伝子というのは DNA で構成されるけれど、DNA と同じとは説明されていない。
 でもきっと、遺伝情報を発現させる DNA は遺伝子と認められるというのは正しかろう。
 その DNA のコピーミスで、遺伝情報を発現させるべき遺伝子にも、その都度エラーが起きることになる。


Richard Dawkins, 1976‐1989. 加速する進化 Ⅰ
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/games/gene.html

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