―― 成功する戦略は「自分自身のコピーと遭遇する可能性が高い」という説に、異論の余地はない。
重要な点は、成功する戦略は、かならずしも特定の競合関係において、相手の戦略に勝つものとはかぎらないことである。成功する戦略は数的に集団で優位なものである。そして数的に優位な戦略は、その定義から、自分自身のコピーと遭遇する可能性が高いのであるから、それは自分自身のコピーの存在するところで繁栄できるときにのみ、数的に優位なままでとどまれるだろう。これが、メイナード・スミスの ESS における「進化的に安定」の意味である。私たちは自然界で ESS が見られると予測する。なぜなら、ある戦略が進化的に不安定であれば、ライバルとなる戦略に追い抜かれて、集団から姿を消すことになるからである。
〔リチャード・ドーキンス『好奇心の赴くままに』ドーキンス自伝Ⅰ (p.390) 〕
上の引用文と同内容のことはすでに『利己的な遺伝子』 (“The Selfish Gene”New Edition, 1989) の「補注」 (Endnotes, pp.282-283) で語られている。日本語訳では、第 5 章の補注「進化的に安定な戦略……」と題されたものになる。
誰でも危険な戦闘状態で、自分のクローンとの遭遇が最悪の事態となれば、いい気はしないだろう。―― 自分が最凶の存在でないことを願うばかりだ。
できれば「いいやつ」であって欲しいものだ。
けれど、自分との戦闘に「わくわくする」ような生命体も、シナリオとしては不自然ではない。どの戦略パターンが増殖していくかという展開で、そういう、強い敵に「わくわくする」ようなパターンが繁茂するとは予想し難いが。
地獄に突き落としたい卑怯者にも、戦闘場面で、それなりの、利はあるだろう。
進化的に安定な戦略 (ESS) というのは、戦略的クローン集団が安定して存続しているとき、異なる戦略パターンは一切の侵入を許されない状態をいう。
その戦略クローン集団に対しては、破壊工作としての他のいかなる戦略パターンも通用しないということだ。
ここで疑問がある。戦略パターンとは方向性であって、状態をいうのではない。
遺伝情報が変化しないこととは、一致しないのだ。
すなわち、同じ戦略パターンのもとでは、そもそも遺伝子の変化は前提されているらしい、もとの理論基盤が進化論だからだ。
遺伝情報の変化を許す戦略に、異なる遺伝情報が侵入可能なセキュリティ上の問題はないのであろうか。
進化ゲームはここからはじまった。
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