〝カロリック〟は〈熱素〉と、
日本語では、そう区別できるようです。
ラボアジエは、「物質の燃焼」を
――つまりモノが燃えるということは――
それまで流布していた〝フロギストン〟の放出ではなく、
モノと〈酸素〉との化学的な結合によるものである、
と、化学実験により、証明しました。
それは化学の曙、「質量保存則」の誕生でした。
〝カロリック (calorique = caloric) 〟というのは、
そのラボアジエが提唱した、新しい〝元素〟の一種です。
1789 年の著書 『化学原論』 では、〈光〉や〈熱素 (calorique) 〉などが、元素とされています。
つまり、ラボアジエは、〈熱〉を〈エネルギー〉ではなく〈物質〉だと、考えていたようです。
すると、どうやら、〝フロギストン〟じゃなくて〝カロリック〟が、放出されるもようとなります。
それ以前のこと。ラボアジエは 1783 年に、あのラプラスと共同研究を発表しています。
〈ラプラスの魔〉で有名な、ラプラスです。
それゆえに、ラプラスが科学に「不要」としたのは『聖書』の《神》です、が……
神のごとき皇帝であるナポレオンに面とむかって、
「すでに神という仮説は不要となった」と、いってのけた伝説をもつ、あのラプラスです。
山本義隆氏の 『熱学思想の史的展開』 によれば、ラプラスの、熱量に対しての態度は、次のようであったとされています。
ラプラス自身の熱にたいする見解について、これまでの多くの歴史書ではラプラスを単純に熱運動論者と捉えている。しかしフォックスは、すくなくとも 1803 年以降はラプラスが熱物質論に転向したとしている。実際ラプラスは、19 世紀に入ってからは熱素説の強力な学派を形成し領導するようになった。
〔ちくま学芸文庫『熱学思想の史的展開 2』 (p.24) 〕
ですから、ラボアジエとラプラスの共同研究では、熱が物質かそれともエネルギー(物質の運動)かという問題は深く問われず、どちらであっても通用する〈原理〉を採用することになりました。
それが、「熱量保存則」です。
ラボアジエは、実は「質量保存則」と「熱量保存則」のふたつを残して、世紀末に散ったのでした。
その後の半世紀にわたって、〈熱〉が〈エネルギー〉じゃなく〈物質〉だという考えは、権威筋の信じるところとなります。
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