2016年9月3日土曜日

境界線の向こうは

とろけるチーズの幾何学


図形というと、算数や数学の話になって、とっつきにくい気がするけど、
それがたとえば〝とろけるチーズに描かれた絵〟だとすると、
少しは興味が出てくるかもしれない。
トポロジー=位相幾何学」とはそういう〝絵〟や〝地図〟の話だとしよう。
〝とろけるチーズに描かれた地図〟が、とろけた後の、そういう図形の話だ。

 さてさて、かりに地球が、ゴムボールのようなものだとして。
 北極から赤道までの長さを測って、それを 1 万キロメートルだとしました。
 これは、歴史上の実話です。
 だから実際に、地球を 1 周すると、4 万キロなのです。
 円周の長さは、直径×円周率なので、逆に、4 万キロを 3.14 で割ると、地球の直径が、大ざっぱには、計算できます。半径は、その半分になります。
 そもそも、地球の長さを実際に測ったのは、大昔で、短い距離を測ってから、それで計算した結果を、1 万キロだということにしたのです。
 だから、測定に誤差はつきものなのだし、そもそも地球は真ん丸ではないので、
「地球を 1 周すると、4 万キロなのだ」というのは、おおよその話にすぎません。
 実話、というのは、このように、おおよその話にならざるを得ないのですね。

それを、算数とか数字で表現すると、いかにも正確無比に見えてしまう。
地球儀を赤道で、スパッと切ると、切り口は、ふつう円に決まっているが、
ヒマラヤ山脈なんかの高低差を考え始めると、それがだんだん正しく見えなくなる。
だから、ある程度デコボコした地球儀も必要になってくる。

 ここで、A4 サイズのコピー用紙を持ってきて、それにくるりと丸を書いてみましょう。
 線の端がくっついていないと、図形の内側と外側のさかいめが、はっきりしないのでご注意。
 A4 のコピー用紙が、とろけるチーズで、それがチンされると、丸の形がいびつになります。
 持ち上げようとすると、どんどん、わけのわからない形になっていきます。
 その形を扱うのが、どうやら「トポロジー=位相幾何学」とかそういうものらしいのです。

 さて、ここで問題です。
地球の「北半球」と「南半球」では、どちらが図形の内側と、いえるでしょうか。

どういうことなのか。
A4 のコピー用紙のかわりに、ゴムボールに丸を書いて、丸の内側を塗りつぶしてみる。
それを、「トポロジー=位相幾何学」的に、むにゅっと、ひろげて、
どんどん大きくしていき、反対に、外側をどんどん小さくしていく。
すると、内側と外側が、反対に見えてくる。塗りつぶされているのが、外側だと、そう思う。

 だったら、図形に、〝内側と外側〟の区別なんて、意味がなくなってきます。
 あるのは、境界線の〝あっちとこっち〟でしかなくなります。

地球の「北半球」と「南半球」の場合、赤道がまっぷたつにしているから、判断できかねる。
だけど、赤道の位置がずれたりすると、
大きい方が〝外側〟で、小さい方が〝内側〟だと、いえるかもしれない。

 けれどもあいにく「トポロジー=位相幾何学」では、最初から大きさに意味はありません。
 では、ゴムボールではなく、無限大の大きさをほこるコピー用紙に描かれた図形だと、どうなるでしょう。
 これだと、どうあがいても、〝内側〟は〝内側〟のままのような気がしないでもありませんが……。

アインシュタインの「静止宇宙」モデル


 ここで、宇宙の大きさが、有限か、無限か、という話になります。
 地球から見て、宇宙はどっちかにずれて、つまりかたよって、見えるわけじゃないようです。
 すると、「地球は宇宙の中心に存在する」ということにもなりかねません。
 そんなこんなで、「宇宙は無限大だ」ということも出てきます。
 無限大の大きさに、中心となる位置は想定不可能だから。

さて、アインシュタインが「一般相対性理論」を発表したのは、1915 年で、
その翌年が、その一応の完成の年だともされている。
「一般相対性理論」というのは、〈重力は時空のゆがみだ〉という内容らしい。
1917 年の論文では、それに続いて、
〈時空は球体の表面のように有限だ〉という、計算結果に基づく、理論が出てくる。
それを、アインシュタインの「静止宇宙」モデルという。
これ以降、「膨張宇宙」モデルも、〝膨 [ふく] らむ風船の表面〟で語られることになる。


 そういうわけで、「宇宙に中心はないけれど、有限の大きさをもつ」ということになりました、とさ。
めでたし、めでたし。

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