2016年9月24日土曜日

現実の深さ

 先日来、瞬間の幅について、いろいろと考えてきたのですが、その〔とっかかりの〕きっかけとして、西田幾多郎の考察について、次のような引用文を紹介したことがありました(2016年9月13日火曜日)。

永遠の今の自己限定として時が考へられるといふ立場から云へば、現在は無限大なる円の弧線的意義を有つたものでなければならない。かかる弧線の極限として瞬間といふものが考へられるのである。故に我々は現在は幅を有つと考へる。人間はかかる弧線的存在でなければならない。
新版『西田幾多郎全集』第六巻「現実の世界の論理的構造」 (p.182)

 西田幾多郎はこのように「現在は幅を有つと考へる」のですが、瞬間については瞬間は達すべからざるものであるとし、つまり、幅をもたない時の形態を瞬間と表現しているようです。

現在を瞬間的と考へるならば直線的な時の形が考へられるが、瞬間を有たない時の形も考へることができる。我々は通常経験的には現在が幅を有つと考へて居る、瞬間は達すべからざるものと考へて居る。
新版『西田幾多郎全集』第七巻「行為的直観の立場」 (p.84)

 そのことに加えて、同じ論文の中に、また現実は深さを有つという表現もあります。

空間即時間、時間即空間なる矛盾の自己同一面が、行為的直観の世界としていつも現実の世界と考へられ、そこに世界が成立すると考へることである。そこから主観客観の世界が考へられるのである。故に現実は深さを有つ。所謂知覚の世界とはその平面的なるもの、行為的直観の世界とはその立体的なるものとも云ひ得るであらう。
新版『西田幾多郎全集』第七巻「行為的直観の立場」 (pp.95-96)

 つまり西田幾多郎はいうなれば〝行為的直観の世界は立体的〟だ、とするのです。
 西田幾多郎の「行為的直観の立場」は、昭和十年 (1935) に発表されていますが、このなかにある〈平面的〉また〈立体的〉という語句は、昭和七年 (1932) に発表された「ゲーテの背景」にて同じように使われています。

 ゲーテの詩の背景をなすものは如何なるものであらうか。彼の詩は如何なる背景の上に刻み出されたものであらうか。芸術の背景として永遠といふものを空間と考へうるならば、私は平面的と立体的とに分つことができると思ふ、形なきものと形あるものとに区別することができると考へる。而してその立体的なるものに就いて、高きものと深きものとを区別することができるであらう。
新版『西田幾多郎全集』第七巻「ゲーテの背景」 (p.322)


 これらのことと、共通する語句あるいは概念であるかどうかはわかりませんが、中村雄二郎氏は「時間的、水平的」に対する「超時間的、垂直的」ということを繰り返し述べています。それはまた、〝水平軸・垂直軸〟という言葉でも表現されているようです。

 ここに西田の絶対弁証法(場所的弁証法)では、ヘーゲル的な過程的弁証法の時間性、水平性に対して、超時間性、垂直性ということが重要な性格をなしているのがわかる。
中村雄二郎『西田幾多郎 Ⅰ』 (p.184)

 そしてここに、西田の場所的弁証法は、ヘーゲル的な過程的弁証法が時間的、水平的であるのに対して、超時間的、垂直的性格を色濃く示すことになる。
中村雄二郎『西田幾多郎 Ⅱ』 (p.221)

深層の知と制度論的思考――つまりは場所的弁証法と過程的弁証法――は、人間の知において垂直軸の活動と水平軸の活動の関係にあるが、私としては、その両者のなかにある固有な、思考とことばのダイナミックな運動をできるだけ活発にさせることこそ必要だと思っている。
中村雄二郎『西田幾多郎 Ⅱ』 (p.242)

 このことを解明していく手掛かりは、どうやら〈深層の知〉と〈制度論的思考〉というキーワードにあるようです。

 さて、西田の場所論の骨子を以上のようなものとしてとらえた上で、次に、西田哲学との向かい合いを通じて私が遭遇することになった大きな問題、〈深層の知〉と制度論的思考の関係の問題に入ることにしよう。…………
 まず、〈深層の知〉と私が言うのは、純粋経験の立場から出発した西田が場所の論理に至り、さらにそれを推しすすめることによって可能になった深層のリアリティの把握のことである。それは、結果的に現代の精神分析や精神医学による無意識的な心の深層の解明と結びつくものだが、西田では、宗教的な生命意識を哲学的に掘り下げていくことによって得られた。
中村雄二郎「〈場所の論理〉の彼方へ」『思想』 1994 1  No. 835 (pp.12-13)

 どうもよくわかりません。
「〈深層の知〉と私が言うのは、純粋経験の立場から出発した西田が場所の論理に至り、さらにそれを推しすすめることによって可能になった深層のリアリティの把握のことである。」
 立ち止まって、もう少し、詳しくつづきを読んでいかないと、かすかな理解もならないことなのでしょう。


立体的時間
http://theendoftakechan.web.fc2.com/atDawn/transcend/vertical.html

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