2017年4月20日木曜日

生命の形態形成の過程と チューリング・パターン

 流体力学の先にある〈非線形〉の現象を扱うのは、「複雑系の科学」と呼ばれるものでした。
 単純な 1 対 1 の相関関係や因果関係はこの世界が見せる一面でしかないわけです。
 複雑な系は〈カオス〉とも称され、その物語は、一般に「チューリング・パターン」の数学的な発見から始まるようです。

 1952 年、数学者のアラン・チューリングは、生命の「形態形成」の過程に興味をもち、その数学的な公式化に取り組みました。
 細胞の分化では、どのような刺激によって空間的に均質な対称性が破られていくのか。
 そのときに示されたのが「チューリング・パターン」で、それが実験で立証できたのはチューリングの提言から、約 40 年後のこととされています。
 その間に、〈非線形〉の科学は、ひとつの〝フロンティア〟を発見していました。
 それが複雑系の科学です。
 そもそもは、ポアンカレが 1889 年に示した、「三体問題」が、科学の宇宙を震撼させたのでした。それは簡単にいうと、3 つの天体が引力の相互作用に従って運動するとき、どのように運動するかという問題は、完全には解けないことが証明されてしまった、ということなのです。
―― この世界には、数学的に完全には解けないニュートン力学の問題が、存在する。
 線形の(一本線の)因果関係に、たったひとつ第三の存在がからむだけで。
 たったそれだけのことで。限界が垣間見えてしまったのでした。
 すでにすべてがわかったつもりでいた、世界最高の物理学者たちはさぞや慄(おのの)いたことでしょう。

 1936 年、チューリングは、コンピュータの原型になる概念を発表しています。
 現在でも「チューリング・マシン」という名で語られるものです。
 それは、仮想機械と人間との、いわば、メールでやりとりされる会話です。
 人間がその状況下で、相手を機械だとみなす基準がクリアされ解消されたとき、人間は相手を機械であると判断できないという課題なのです。
 機械と意思をもった生命の違いとは何なのか? ―― その命題は、やがては。

生命は、どのようにしてその独自の姿を形作って誕生するのか。
―― という問いとなって、巡りゆき。

 数学者チューリングは、人間であることの意味を、生命の起原にまで溯って考えようとしていたのでしょう、か。
 無機物から、いかにして有機物が合成され、生命が発生したのか。から、始めようとして。
 研究とは無関係なことに起因して人間としての尊厳を奪わるような強制を受け、チューリングは、1954 年に自殺しました。

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