2017年4月11日火曜日

流体の物理学と複雑系

 治山治水に、流れの学は必要でした。雲の流れは天候の目安となりました。
 やがて気体と液体を合わせた流れの学は、「流体力学」という物理学の分野になります。
 それは鉄をも天空に浮かす力を秘めていました。

 そういうわけで、船や飛行船が海や空に浮く〈浮力〉というのは、アルキメデスの原理で解決でしょうけど、何百トンもある飛行機が空に浮く〈揚力〉の原理について調べていると、
揚力の原理の説明には諸説あり、作用・反作用の法則によって説明する方法などもある。
と、図解雑学『飛行機のメカニズム』水木新平・櫻井一郎/監修 (p.10) に書いてありました。
 また、別の資料には、次のようにあります。

ベルヌーイの式が結果であり、原因は流れが曲げられることにあるとする説である。実際には、ベルヌーイの式の微分形である流れ方向の運動方程式と、それに垂直な方向の運動方程式、圧力こう配=遠心力、が同時に成立しているので、どちらが先とはいいがたいが、専門家はこちらのほうの解釈を好んでいるようだ。
『飛行機の百科事典』平成21年12月25日 丸善発行 (p.96)

 こういうことを読むと、〝揚力の解釈は種々あれど飛行機は好みの理論で飛ぶわけじゃない〟と思ったりします。
 どうやら基本的には流れる場所が狭くなると速く流れて圧力が低くなるという〈ベルヌーイの定理〉というのが、揚力の原因として説明に用いられているらしいのです。

その法則は、次のように、解説されています。

ベルヌーイの定理とは、こうした連続した気体や液体の流れにおいて、速度エネルギーと圧力エネルギーと位置エネルギーの合計はどこでも一定であると理想化した法則のことだ。
〔図解雑学『飛行機のメカニズム』 (p.12)

巨大な機体すらも空高く浮かす〈揚力〉の実験というのは、けっこう重要なものらしく、
宇宙ステーションでも、紙飛行機らしきを飛ばして映像記録が取られたりしています。
空気はあるけど、無重力、という狭い空間内での、短い軌跡です。
子供向けの科学実験ビデオなのでしょうか。もっと、意味深いものかもしれません。

 さてそのような、重力にさからう自然の力はさまざまな現象として顕れ、時に予測不可能な発生のしかたで猛威を振るいます。
 大気の温度差が原因となって、対流が起きますが、それが激しい乱流になると、突然の竜巻で、校庭のテントが飛ばされたりもするのです。
 竜巻が屋根までもすっ飛ばすのは、風の勢いなのでしょうか、それとも、〈揚力〉の作用が大きいのでしょうか。
 竜巻予報は、いまのところ、当たらずとも遠からず、の辺りが限界のようです。
 この〝あたり〟が、現代科学の限界であり、現在も人知の及ばない自然の作用なのです。
 こういう現象は〈カオス〉といわれたり、〈複雑系〉といわれたりしています。
 20 世紀までは、樹形図で描かれる、細分化の科学が探究の中心にありました。
 20 世紀の後半から、21 世紀にかけて、ネットワークの科学が開始されています。
 それは〈非線形〉の科学といわれ、これまでの一本の筋道で理路を辿れる科学は〈線形〉と呼ばれるようになっています。
 そういう非線形科学の立場について、印象的な、一節がありました。

 モノを「主語」とすればコトないし現象は「述語」である。したがって、物理学の体系は自然の「主語的統一」にもとづいた知識体系だと言えるであろう。主語的統一にもとづく意味体系は基本的に樹状の構造をもつ。ある科学的知見は、この階層構造のしかるべき位置に組み込まれたとき、あるいは近い将来組み込まれることが期待されるとき、物理学的知見として認知される。ところが、樹状の知識体系の大きな欠陥として、末端に行けば行くほど細分化されるということがある。末端の多様性はすべてアトムから演繹できるとしても、アトムにまでさかのぼらず、あくまで複雑な現象世界にとどまりながら統合的な世界像を描こうとすると非常な困難に遭遇する。考えられる唯一の解決法は「多様な現象の中の不変な構造こそが自然のリアリティである」とする自然観に立つこと、つまり「述語的統一」にもとづいて自然を理解していくことであろう。そこでは対象の物質的成り立ちは重要でなくなる。…………
 非線形科学は物理学の階層的秩序構造の中に位置づけられることを特に望まなかったかわりに大きな自由を手に入れた。そして複雑世界のただ中に非中心化された知識のネットワークをあらたに構築しようとしている。それは世界像をたえずリフレッシュしていく作業であり、科学言語にもとづいてはいるが芸術における創造活動と相通じる面がある。なぜなら、いずれにおいても個物間の関係を組み替えることでわれわれが慣れ親しんだ主語的統一にもとづく世界像を解体し、個物間の位置関係が著しく変化した新鮮な世界像を開示するからである。…………
〔蔵本由紀「開放系の非線形現象」岩波講座『科学/技術のニュー・フロンティア (1)』所収 (pp.197-198)

 世界を存在(対象)それ自体ではなく、作用(現象)の構造から問い直そうという、挑戦なのです。


流体力学から複雑系へ:ベルヌーイの定理と対流・乱流
http://theendoftakechan.web.fc2.com/sStage/Bernoulli.html

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