2017年11月30日木曜日

ヴァイロファージが ウイルスを〝殺す〟

 バクテリアだと思って調べてみたら、巨大なウイルスだった、という新発見が 21 世紀のはじめに報じられました。
 武村政春氏の『巨大ウイルスと第4のドメイン』〔2015年 講談社ブルーバックス〕には、そんな巨大ウイルスに取憑くウイルスが発見された話も載っています。

 自分が寄生者で、まんまと宿主に入り込んで甘い汁を吸い、いい気になっていたら、じつは自分自身にもさらに小さな「寄生者」がいつの間にか取りついていて、甘い汁を吸われていた。
 そんなバイオハザード的な状況が、ウイルスの世界に存在したことがわかったのは、ミミウイルスの発見から数年経った、二〇〇八年のことだった。
…………
 細菌(バクテリア)に感染するウイルスのことをバクテリオファージというが、この寄生体は、「ウイルスに感染するウイルス」という意味をこめて「ヴァイロファージ」という名前が付けられ、その「愛称」として「スプートニク」という別名も与えられた。
〔『巨大ウイルスと第4のドメイン』 (p.40, p.41)

―― 「ミミウイルス」(Mimivirus) というのは、1992 年に発見された当初、細菌だと思われて「ブラッドフォード球菌」と名づけられた、巨大ウイルスのさきがけです。ようやくウイルスだとわかって命名されたその名は、2003 年に『サイエンス』誌上で発表されました。
 2008 年には、そんな巨大ウイルスの 1 種「ママウイルス」(Mamavirus) に、小さな寄生体がいることが発見されたのです。
 もっぱら〝生きてない〟と評判のウイルスにウイルスが〈寄生〉するというのはどういう状況なのか。
―― 武村政春氏はウイルスに感染するウイルスという表現をとりつつ困惑を表明しています。

しかし、彼らもやはり「ウイルス」であり、生物とはみなされない宿命を背負っている。もしウイルスが「生物ではなく物質」であるというなら、このヴァイロファージは、「物質に寄生する物質」という位置づけになる。何となく「?」マークがつきそうな状況だ。
〔同上 (p.43)

―― 氏の説明によれば、スプートニクはママウイルスに随伴するようにアカントアメーバに感染した挙げ句の果てにはママウイルスを殺してしまう(p.42) といいます。
 生きていないウイルスを〝殺す〟という比喩は、ウイルスを活動停止に追い込むという以上の意味をもつのでしょう。分解して遺伝情報を消滅させるということなのでしょうか。
 また同じページには、ヴァイロファージが真核生物の進化に大きな影響を与えてきたとされているとも語られています。
 このあたりに、なんとなく、生命現象の根元的な姿を見る思いがします。
―― ウイルスが生きていないとされる理由は多々あるようですが、特に印象に残った説明文があります。

 ミミウイルスは、その名のとおり「ウイルス」だから、生物の分類における「微生物」にはあたらない。先ほど「抗生物質は効かない」と述べたように、ウイルスは生物ではないからである。
〔武村政春『生物はウイルスが進化させた』2017年 講談社ブルーバックス (p.24)

―― 抗物質とは「生物」である細菌やカビなどに有効であると、『生物はウイルスが進化させた』の 23 ページにあり、その後も繰り返し述べられています。そしてもうひとつ。

 細胞性生物が「自立」しているのは、細胞膜の存在があって、それによって外界と内部とが明確に分かれており、いつでも「自己」と「非自己」を分け隔てできているからである。これに対してウイルスは、もしウイルス粒子をその本体であるとするならば、ウイルス粒子は感染した宿主の細胞中では完全に崩壊し、暗黒期を生じることから、ウイルス粒子を「自己」とするのであれば、その期間は完全に「自己」が消失し、非自己の中に散逸していることになる。
〔同上 (pp.209-210)

 上の引用文中の暗黒期というのは、幾何学的な形状のウイルス粒子の姿が消滅してしまう時期とされます。
 その外形はタンパク質の殻でできており、中に遺伝情報となる核酸が入っています。
 ウイルス粒子はまるで、動力装置を失って漂うカプセル型の宇宙船のようなイメージです。
 それでもって、生きた細胞というのは、偶然くっついてきたそれをパクと食べてしまう習性をもつらしいのです。
 ウイルスは消化される前に、まんまと感染するというわけです。


生命と非生命の間
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/systems/virus.html

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