2017年11月20日月曜日

エディアカラへの道

変更された〈カンブリア紀〉以前の時代・再び


 前回、宇佐見義之・著『カンブリア爆発の謎』〔2008年 技術評論社〕の記述を参考に、〈先カンブリア時代〉の期間について、1994 年に修正があったようです、と書いたのですが、その 10 年後にまたも、新たな決定が行なわれていたようです。
―― 文献から参照します。

 後生動物の最古の化石が最後の全球凍結終了に続くエディアカラ紀( Ediacaran period 、六億三五〇〇万年前から五億四一〇〇万年前まで)の初期に多数みられている。
〔日本宇宙生物科学会・編『生命の起源をさぐる』2010年 東京大学出版会/馬場昭次「全球凍結の余波と多細胞生物繁栄のはじまり」 (p.178)

―― 前回の参考資料では、
一九九四年に国際委員会は五億四二〇〇万年前からカンブリア紀が始まるという修正案を出し、正式な定義となりました。」〔『カンブリア爆発の謎』 (p.81)
と、なっていましたので、確認のために、他の文献に新しい決定時期などを求めると、次のものが見つかりました。

 スプリッグの発見以後、イギリス、ロシア白海沿岸、カナダのニューファンドランドなど、南極を除くすべての大陸で、エディアカラと同様の化石が発見された。
 こうして世界中で確認された軟体性生物の化石群を、スプリッグの発見した場所にちなんで「エディアカラ生物群」とよぶ。そして 2004 年、エディアカラ生物群に代表される新たな地質時代として、冒頭で述べた「エディアカラ紀」が設定された。エディアカラ紀の年代は、約 6 億 3500 万年前~約 5 億 4100 万年前とされている。
〔土屋健・著『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』2013年 技術評論社 (p.21)

―― ここに引用した『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』は、群馬県立自然史博物館・監修となっています。
 その 38 ページに〝 「楽園」とよばれた時代〟として、『カンブリア爆発の謎』でも紹介されていた「エディアカラの園」についての記述がありました。

 エディアカラ生物群の多くは、眼も歯もトゲももたず、脚もない。基本的に軟体性で、敵から身を守るための殻などの硬組織ももたない。こうしたことから、この時代はまだ本格的な生存競争が始まっていなかった、ともみられている。「争いのない時代」ということに注目し、このエディアカラ紀を旧約聖書に登場する「エデンの楽園」になぞらえて、「エディアカラの楽園」とよぶこともある。

「エディアカラの園」以前の捕食関係のこと


 冒頭の引用文献『生命の起源をさぐる』は、さまざまな執筆者の論稿で構成されていますが、井上勲「原核生物から真核生物への進化」の一節「真核生物がもたらした新たな生態系」では、
真核細胞の起源と系統の解明は重要だが、同時に重要なことは、真核生物の出現が地球上に新たな生態系を生み出し、地球環境を変えたことを正しく認識することである。
として、次のように論じられています。

 真核生物は本来、従属栄養生物で、基本となる栄養様式は「捕食」だったと考えられる。真核生物の原始的な性質を残すとされるエクスカベート類は、真核生物が新たに獲得した細胞骨格を駆使してきわめて複雑な捕食装置を構築しているが、捕食するのは細菌である。小さな細菌をせっせと食べる。一方で、多くの原生生物は細菌だけでなく、大きな真核生物を捕らえて食べる。種類によっては自分の体より大きな細胞も捕食する。つまり、真核生物では、「細菌食」から「真核生物食」への進化が起こったと想定されるのである。真核細胞は原核細胞の一〇〇〇~数十万倍の体積があるので、真核細胞を一個食べることは、一〇〇〇~数十万個の細菌を食べることに等しい。きわめて効率のよいエネルギーの獲得を可能にしたのである。真核生物の進化において、食作用の効率化はきわめて適応的な進化で、多様な原生生物をうみ出す推進力になっていったと考えられる。原核生物のほとんどは捕食を行わず、有機物を吸収して利用するから、捕食は真核生物の出現と多様化においてエネルギー獲得の重要な方法として確立したといえる。
〔『生命の起源をさぐる』 (pp.145-146)

―― 細菌(バクテリア)は、原核生物に属する単細胞の微生物で、つまり生命体に所属しているれっきとした生き物です。
 楽園伝説の一環として「エディアカラの園」には捕食関係がなかったというようなのほほんとした見解も見受けられるようですが、上記の、真核生物において捕食装置が強化されたという考察は、その見解を撃破してあまりあります。
 〝捕食関係がなかった〟というのはおそらくは、エディアカラの園に血が流れるたぐいの捕食関係はなかったという意味なのでしょうけれど。
 植物にしたって、捕食されることで活動範囲を広げる戦略をとっているのですが、それと血が流れることは直接の関係はないでしょうし。
―― 一方で、弱肉強食の時代はすでに萌芽(ほうが)していたともいわれます。
 実際、「原核生物から真核生物への進化」で論じられたように、進化の初期にあった爆発的な革新は、〈真核細胞への進化〉ではなかったでしょうか。

 実際は、原核と真核の細胞の間には、多くの差異があり、生物進化史上最大のギャップが横たわっている。後述のように、真核細胞の化石は最古でもアメリカで発見された二一億年前のグリパニア化石と考えられている。三八億年前に誕生した最初の生命は、原核細胞からなる原核生物としてうまれたはずだから、真核生物は、生命誕生から二〇億年近い時間を経てうまれたことになる。真核細胞からなる真核生物の出現は、その後の生物進化と生態系を大きく変えた重要な事件である。
〔同上/井上勲「原核生物から真核生物への進化」 (p.124)

 そして、その後〈エディアカラ〉へと通じる道には間違いなく、〈多細胞化への道〉が細胞間ネットワークの課題として、未知なる時代を示唆していたはずです。
多細胞生物への分岐を果たした単細胞生物にはすでに遺伝子的にはその準備ができていたことが次第に明らかになりつつある。」〔同上/馬場昭次「全球凍結の余波と多細胞生物繁栄のはじまり」 (p.182)

 原核生物同士の捕食関係が、ミトコンドリアなどの細胞小器官を付属させた真核生物の誕生につながっていったというストーリーは、誰も見ていない時間にあった物語として、アリでしょう。
 20 億年近い時間を費やした途方もない繰り返しの果てに可能になっていったというのは、同様に、真核生物の〝細胞核〟についてもいえます。
 武村政春・著『生物はウイルスが進化させた』〔2017年 講談社ブルーバックス〕に描かれる仮説なども発表されているのですが ……。けれども、それまでムキ出しだった、ゲノム DNA が、二重膜に包まれて隔離されるまでの経緯は、まだ混沌とした論議のなかにあるようです。


自己組織化 と ネットワーク・システム
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/systems/index.html

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