2017年9月24日日曜日

フィッシャー〈ランナウェイ・プロセス〉の原文

最初は実用的だったにせよ、いまではすっかりお荷物になってしまった、装飾の羽根飾り。
やめられなくなったノリを、正のフィードバックと解釈した理論の、そもそもなのですが。

 フィッシャーの〈暴走プロセス〉とも〈ランナウェイ過程〉とも和訳されています。
 全部カタカナにすれば〈ランナウェイ・プロセス〉となります。
 もともとは、“runaway process” という英語です。
 英国人ロナルド・フィッシャーが、ではどこに、それを記述したのかといいますと。
“The Genetical Theory of Natural Selection” という著作のなかにあります。
 これは「遺伝学 (genetics) 」の「理論 (theory) 」であると、タイトルに書かれています。
 この本の日本語版はないらしく、直訳すれば『自然選択の遺伝学的理論』となるのでしょうが、和訳された書名は一定しません。
 その、第 6 章にある、“Sexual selection” と題されたセクションの 137 ページに、それは説明されています。
 該当の 1 段落をピリオドごとに改行して、引用すると、次のようになります。
 最後の改行部分に、runaway process は説明されています。


資料参照サイトhttps://archive.org/details/geneticaltheoryo031631mbp
資料リンクhttps://ia801407.us.archive.org/12/items/geneticaltheoryo031631mbp/geneticaltheoryo031631mbp.pdf
引用ページ ダイレクト
〔"https://ia801407.us.archive.org/12/items/geneticaltheoryo031631mbp/geneticaltheoryo031631mbp.pdf#page=161"〕

  The two characteristics affected by such a process, namely plumage development in the male, and sexual preference for such developments in the female, must thus advance together, and so long as the process is unchecked by severe counterselection, will advance with ever-increasing speed.
 In the total absence of such checks, it is easy to see that the speed of development will be proportional to the development already attained, which will therefore increase with time exponentially, or in geometric progression.
 There is thus in any bionomic situation, in which sexual selection is capable of conferring a great reproductive advantage, the potentiality of a runaway process, which, however small the beginnings from which it arose, must, unless checked, produce great effects, and in the later stages with great rapidity. 
〔R. A. FISHER “THE GENETICAL THEORY OF NATURAL SELECTION” OXFORD AT THE CLARENDON PRESS 1930 (p.137) 〕


さいわいにも、はじめの二行分には、和訳があります。
リチャード・ドーキンス/著『盲目の時計職人』に、その個所の引用文があるのです。
まあ、ここと同じだろうと、翻訳文から推測できるわけです。
最後の改行個所については、グーグル翻訳を利用して日本語に訳してみますと。

  〔The two characteristics affected by such a process,〕 雄の羽毛の発達およびそうした発達への雌の性的な選好性は、したがって同時に進むにちがいない。そして、その過程が激しい対抗淘汰によって止められないかぎり、それはたえず速度を増しながら進むだろう。
 そうした抑止がまったくない状態では、発達の速度はすでに達成された発達の度合に比例すること、したがって時間とともに指数的に、あるいは等比数列的に増大することは、容易に見てとれる。
〔日本語版『盲目の時計職人』日高敏隆/監修 2004年 早川書房刊 (p.320)

 このように、性的選択は大きな生殖的優位性をもたらすことができるあらゆる生物学的状況にあり、暴走プロセスの可能性は、それが起きた開始点は小さいが、チェックしない限り、大きな影響を及ぼさなければならない。後の段階は非常に迅速です。
〔グーグル翻訳より〕

ドーキンスは、フィッシャーの著作からの引用文に続けて、こう書き記しています。

 いかにもフィッシャーらしいところだが、彼が「容易に見てとれる」と思ったことは半世紀あとになるまで他人には十分理解されなかった。…… 一九三〇年の本につけた「まえがき」のなかで「私のいかなる努力もこの本を読みやすくするのには役立つまい」と述べたフィッシャー自身ほどに私は悲観的ではないつもりだが、それでも私がはじめて出した本のある親切な書評者の言葉にあるように、「読者には心にランニングシューズを履かねばならないと警告しておこう」。私自身これらの難解なアイデアを理解するのに苦闘したのである。
〔日本語版『盲目の時計職人』 (pp.320-321)


 さっするに、フィッシャーの本は、相当に難しい内容の書物と思われ、英語原文の解読は容易ではなさそうです。
 英語を母国語とする、訓練を受けた科学者が、「私自身これらの難解なアイデアを理解するのに苦闘した」と明言を惜しまないのですから。
 われわれは、かくのごとき容易ならざる困難を前にして ……
 幾多の親切な科学者が一般向けに解説してくださった書物を拝読する、ばかりなのです。

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