2017年9月21日木曜日

進化の総合学説の革新(パラダイムシフト)

 20 世紀の初頭に遺伝学が確立した。
 はじめそれは、ダーウィンの進化論と対立したが、理屈として〈遺伝が〝粒子的〟な遺伝子の混合で親から子へと伝わるのであれば、それは一定範囲内での多様性をともなう変化となる〉ので、〈進化ということは考えられない〉と、いうことなのであろう。
 そこに〈突然変異〉の研究が加わることで、遺伝子の適応的な突然変異が自然選択される、進化の理論となって、統合されていく。
 そのあたりの説明が、まとまって、叙述された文章があるので引用したい。

 フィッシャーは集団内における遺伝子分布を数理統計学的に扱う方法と理論を開発し、『自然淘汰の遺伝学説』において、集団遺伝学の基礎を確立した。ホールデンは、有害な突然変異が集団の適応度に与える影響など、自然淘汰の具体的な側面の理論的研究で集団遺伝学に貢献した。『進化の要因』は、自然淘汰による進化を数学的に説明したもので、総合説の代表的著作の一つといえる。ライトは、ライト効果と呼ばれる遺伝的浮動の発見者として名高い。
 こうした集団遺伝学の発展をもとに、生態学その他の生物学分野を統合して、生物学の統合理論としての進化論をつくろうとする動きが一九三六年から起こり、一九四七年にプリンストンで行われた国際会議で、古生物学者を含めて、多方面の生物学者が合意に達した。この進化論が総合説、あるいはネオ・ダーウィン主義と呼ばれるものである。
 総合説の主張を要約すれば、進化は小さな遺伝的変異に自然淘汰がはたらくことによって生じる漸進的な過程として説明できるというもので、大進化も基本的には、小進化の積み重ねによって説明できると考える。…… 総合説は集団遺伝学をもとにしているので、自然淘汰の単位が個体ではなく遺伝子にあることが暗黙の前提になっている。
 Ronald A. Fisher, The Genetical Theory of Natural Selection, Clarendon Press, 1930.
 J. B. S. Haldane, The Causes of Evolution, Longmans, Green and Co., 1932.
〔垂水雄二著『進化論の何が問題か』2012年 八坂書房刊 (pp.58-59)

 前回の最後に触れたことでもあるけど、第二次世界大戦をはさんで、ウィリアム・D・ハミルトンが、フィッシャーの理論を再発見してその成果を発表したのは、1964 年のことだ。
 こうして、ハミルトンの業績は「進化の総合学説」に新たな展開を示した。
 実は、その前年には、彼は基本となる数式を完成させており、短い論文として発表している。
文献 : William Hamilton, “The Evolution of Altruistic Behavior,” American Naturalist 97 (1963), 354-56.

 ハミルトンは、個体の適応度 (individual fitness) だけでなく、血縁者の適応度も含めた包括適応度 (inclusive fitness) を、自然選択される進化の基準とした。
 メイナード・スミスは査読した論文を二部構成で完成させるよう(ハミルトンに)アドバイスするとともに、1963 年の論文にインスパイアされるかたちで、血縁淘汰 (kin selection) の論文を、なんと、ハミルトンの完成論文よりも、先に、発表してしまった。
 このことがふたりの関係性に、しばらく尾を引いたという。
 Maynard Smith, J. (1964). Group selection and kin selection. Nature, 201, 1145-1147.
 Hamilton, W. D. (1964). The genetical evolution of social behaviour, I, II. Journal of Theoretical Biology, 7, 1-52.

 こうして喜怒哀楽なる人生の悲喜こもごも、遺伝子の適応度が、自然選択の対象として、理論化されていくこととなる。
 分子遺伝学の分野では、分子進化の研究から〈中立説〉が次第に浮上してくる。
 その代表的著作に、木村資生著『分子進化の中立説』がある。
 Motoo Kimura “The Neutral Theory of Molecular Evolution” (Cambridge University Press, 1983)
 日本語版は邦訳されたものであり『分子進化の中立説』(1986年 紀伊國屋書店)として刊行されている。
 ヒトゲノム計画以降の、分子遺伝学の発展により、遺伝子型と表現型の関係は、かつて想定されていたような単純な 1 対 1 の関係ではないことが、明らかになってきている、という。
 場合によっては自然選択の理論さえも淘汰の対象となりかねない、勢いだ。


ネオ・ダーウィニズム
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/Dennett.html

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