Adam Smith (1723~1790) の国富論は 1776 年に刊行された。James Watt (1736~1819) が蒸気機関に関する発明で特許を得た 7 年後である。2 人とも Glasgow 大学に勤めていた。それでも、Adam Smith の偉大な仕事のなかで、石炭のただ一つの用途は勤労者に熱を供与することであった〔文献 1 〕。18 世紀の機械はまだ風力か、水力か、動物の力によって動かされていた。Alexandria の Hero が水蒸気の力で球を自転させることを知ってから、ほとんど 2000 年もの年月がたっていたが、運動を引き起こし、機械を動かす火の力はまだおおい隠されたままであった。Adam Smith は石炭にこの隠れた富を見出すことはできなかったのである。
しかし、やがて蒸気機関は新しい可能性を切り開くことになった。熱を機械の動力へ変換するという発明は、産業革命を先導したばかりでなく、熱力学という科学の誕生をも促したのである。天体の運動の理論に端を発するニュートン力学とは異なり、熱力学は熱が運動をつくり出す可能性という、より実用的な関心から生まれたのである。
文 献
1. Prigogine, I. and Stengers, I. Order Out of Chaos. 1984, New York: Bantam.
〔『現代熱力学』妹尾学・岩元和敏/訳 (p.2) 〕
19 世紀( 1800 年代)初頭、石炭のもたらす動力源という〝価値〟の可能性と効率性に、いち早く注目したのが、カルノーだった。
“Order Out of Chaos” ――邦訳 『混沌からの秩序』 の 168 ページには、ラザル・カルノーの息子として、サディ・カルノーが辿った道程が語られている。
そして、169 ページにはこう記述されている。
「異なった速度で動く物体間の接触をすべて避ける力学的機関と同様に、理想的熱機関は、異なった温度の物体間の接触をすべて避けなければならない。」
「それで、理想的なカルノー・サイクルは、かなり巧妙な装置であって、温度の違う物体の接触を伴わずに、温度の異なる二つの熱源の間に熱を伝達するという逆説的な結果を達成している。」
サディ・カルノーの論文は、1824 年に、600 部が自費出版で刊行されたあと、祖国フランスからは、忘れられた。
カルノーはまもなく、1832 年にコレラで死亡し、その感染防止のために、遺品は焼却処分された。
カルノーの兄弟が保管していた遺稿のノート「覚え書き」は、1878 年まで公開されなかった。
そのノートには、驚くべきことに〈熱量〉がエネルギー換算されていた。立脚点としての〈熱素〉説を放棄する内容だ。
――熱エネルギーと、力学的エネルギーとの間の比例定数は「熱の仕事当量」とよばれる。
ちくま学芸文庫『熱学思想の史的展開 2』 (p.305) には、カルノーのこの当量は、
1 cal = 3.63 J と、計算されている。
前出の『現代熱力学』 (p.52) には、その計算結果は、
1 cal = 3.7 J と、書かれている。
ジュール (J) は、〔力学的〕仕事量を表わすエネルギーの単位で、1 カロリーは、1 グラムの水の温度を 1 度上げるために必要な熱のことだ。
現在では、1 カロリーに相当するその 1 度の範囲までが、厳密に定められている。
ちなみに、『現代熱力学』 (p.24) には、
ランフォードによるその見積もりは、
1 cal ≒ 5.5 J とされ、
現在の数値は、
1 cal = 4.184 J であることが、記されている。
フランス人カルノーの〈熱量〉に対する思考の出発点は、物質としての〈熱素〉説であった。
それが、最終的には、「エネルギー保存の法則」へとその方向性が正されている。
また大前提として、カルノーは、自身の理想的な、カルノー・サイクルは、実際には存在し得ないと、認めていた。
熱には、力学的エネルギーの現実における摩擦と同じように、必ずロスが発生するのだ。
その後、イギリスからフランスへの留学中に、3 年がかりで、忘れられたカルノーの論文を発掘したスコットランド人ウィリアム・トムソン――後のケルビン卿は、その論文を再検討した結果、「熱力学第二法則」にいたる。
それは「エントロピー増大の法則」ともいわれる。
1850 年、トムソンの論文などから、ドイツのルドルフ・クラウジウスが先に気づき、その 2 年後に、トムソンもそこへ辿りついたとされる。〈エントロピー〉の語は、1865 年にクラウジウスの論文で名づけられた。
「熱力学第一法則」は、「エネルギー保存の法則」である。
カルノー・サイクル:熱量保存則 及び カルノーの定理
http://theendoftakechan.web.fc2.com/sStage/entropy/Carnot.html
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