「マクスウェルの理論はマクスウェルの方程式系である。」
〔アブラハム・パイス『神は老獪にして…』西島和彦/監訳 (p.149) 〕
マクスウェルの天才ぶりは、その死後にようやく、電磁波がヘルツによって実験で証明されたことでも推測できましょう。
また彼が考案した魔物は、〝物理的〟には存在しないことがすでに示されているにもかかわらず、物理学上の問題提起の代表格として語り継がれています。
これは、ブラウン運動が分子の衝突によって起こるという理屈に確率論が絡むようです。
マッハ (1838~1916) が死ぬまで原子の存在を信じようとしなかった時代に、分子の運動を統計的に語ろうとしたのです。
1871 年のマクスウェルの著書『熱の理論 (Theory of Heat) 』にその魔物(デモン)は出てくるようです。
マクスウェルの魔物は、分子のひとつひとつの動作を見極めて、それを仕分けする能力をもちます。
ですから速度の違いを知って、速い(熱い)分子と遅い(冷たい)分子を自由に配置することができるので、結果として、自然界に温度の差が自在に設定できるという、超自然的存在なのです。
ですがそのように〝物質〟と相互に作用可能な〝物体〟は、通常は〝物理的〟に存在しなければならないので、その魔物を実在させようとすると、「第二種永久機関」に匹敵する存在となってしまうといわれます。
同じ 19 世紀の後半。ケルビンの地球は「冷え切って熱的死」を迎えるという終末論を咲かせました。
クラウジウスの終末宇宙では、やがて平衡状態になって〝熱雑音〟に蔽われ、何も起きなくなって〈熱的死〉を迎えるという未来予測のようですが、それは宇宙を「大きさの固定された閉鎖系」として前提したからでした。
で。その「大きさが限定され、閉鎖された空間」に働きかけて、平衡状態にいたる〈熱的死〉を阻止しようとする魔物は、理屈上、まずはその魔物自身の〈熱的死〉が必然とされる仕儀となります。
途中で死んでしまったのでは、期待された魔物とはいいようもない次第です。
ところが――。さいわいにも宇宙はそういう魔物の必要もなく〈熱的死〉を免れる仕様に設計されているようです。
宇宙が膨張している事実はすでに確認済みといえるので、宇宙船地球号と異なり、同じ有限な領域でも宇宙では、廃熱を棄てるべき冷たい空間は常時拡大中なのですね。
その場所は、かつて〈ニューフロンティア〉といわれたかも知れません。
そしてまた、このあたりが重要と思われるのですが、マクスウェルの魔物が実在しなくても、確率的には、空間の温度差は、(場合により偶然のもたらす結果として)自然に生じることとなります。
マクスウェルの魔物の真の正体は、数学的に存在する確率の理論なのでしょう。
アボガドロの法則 及び ブラウン運動
http://theendoftakechan.web.fc2.com/sStage/entropy/Avogadro.html
0 件のコメント:
コメントを投稿