2015年11月30日月曜日

ホッブズ「知は力なり、されど乏し」

 まず、最初に見たのは、こういう原文でした。

Scientia est potentia

 次に見たのは、こういう形でした。

scientia potentia

 いずれも、フランシス・ベーコンに「帰される格言」であり、「唱道した」ものであるという触れ込みなのでした。それで――。
 その触れ込みの表現と、それなりに信頼できそうな「辞書」に記述された原文が異なる、という条件があいまって、ベーコン自身は言ったこともない成句なのだろうと、この時点でほぼ確信できたものです。

 はたして、次に見た解説文には、こうありました。

「知は力なり」というダイレクトな表現はベーコンの著作には見いだされない。ホッブズの『リヴァイアサン』ラテン語版の第一部第一〇章に ‘scientia potentia est’ というダイレクトな表現が見いだされるが、むしろそれはネガティヴな文脈で出現しているにすぎない。つまり、学問的知識は小さなものでしかない、なぜなら、それを有している人は少数だからである、という含意である。ベーコンについて言えば、『聖なる瞑想』(Meditationes Sacrae, 1597) に、‘scientia potestas est’ という表現が見いだされるが、それはあくまで、神において、その知は神の力である、という意味であって、一般に流布している意味とは異なる。

 その後しばらくして、こういう説明に巡り合うことができました。

ホッブズも「知は力なり、されど乏し[パルウア]」(19) と言っている。
(19)  T. Hobbes, De Homine, cap. X. またホッブズは「力」の種々相をあげ、「諸学は小さな力である」と言っている。『レヴァイアサン』第一部、一〇章。 

 同様な説明は、次のようにも、あります。

 このベイコンのモットーとされている言葉は、実際は彼のものではなく、ホッブスのものである。これに対応するベイコン自身の章句は『ノヴム・オルガヌム』(一-三)にある、「人間の知と力は同一のものに帰する」(scientia et potentia humana in idem coincidunt.) である。

 いずれも、我が国の第一人者と思われる研究者たちによる研究成果なのです。
 ちなみに、ホッブスは、ベーコンの秘書をしていたという、経歴の持ち主でもあります。
 これはもう、ベーコンではなくて、ホッブズによる成句として構わないのでないでしょうか。
 そうしてもって、

17 世紀 イギリスの「知と力」と革命と
〔前半〕: ベーコンとホッブズ:「知と力」と魔術
http://theendoftakechan.web.fc2.com/nStage/Hobbes.html

のページ冒頭部分で、

“Scientia potentia est, sed parva.”
「知は力なり」とホッブズはいった「だがそれはたいした力ではない」と

とばかりに断定しました。

 しかしながら、まだそのラテン語原文を、資料として、確認できたわけではありゃしません。

そういうわけで、鳥取県立図書館で原文資料を探してもらい――、
その結果、国立国会図書館から、相互貸借システムを利用して借り受けることができました。
鳥取県立図書館まで届けられた資料(館内閲覧限定)で、必要なコピーを取ってもらうこともできました。

 そうして、上の原文に間違いのないことが、確認できたのです。
 これはこれは、いかにも、図書館利用の一例のご紹介です。
 この便利な図書館機能の利用代金はというと、複写(コピー)料金以外は、無料です。
 これはこれは、いつもお世話になっている鳥取県立図書館の宣伝文句のようになっております。
 まあそういうつもりです。

その、ラテン語原典に、興味のあるかたは――、
資料名等はページ上にて、ご確認ください。ページ上の、

“LEVIATHAN” VOLUME 2

をクリックすることで、詳しい資料名が記述してある、自前の参考文献ページに移動できます。
その名を頼りに、国会図書館で、捜してみてください。〔ここで漢字が違うのは「探索」と「捜索」の違いです〕


ホッブズ「知は力なり、されど乏し」ラテン語版
http://theendoftakechan.web.fc2.com/nStage/Hobbes.html#Leviathan


 また、このたびは、別のページにも【付記】として、次のような参考資料(引用文)を挿入いたしました。
『科学革命の新研究』(日新出版、1961 年初版)に収録された、M. E. Prior による 1954 年の論文です。
 ベーコンの「博愛」について、「バーレイにあてた彼の有名な手紙」として、引用および論述されています。

 M.E.プライアー(渡辺正雄訳)「ベイコンの科学者観」より
http://theendoftakechan.web.fc2.com/nStage/philanthropy.html#Prior_Bacon

2 件のコメント:

  1. 「知は力なり」という言葉は良く思い返しますが、「~されど乏し」と続いているとは目からウロコでした。

    確かにいくら真理を言い当てていたとしてもそれを理解できる人が居なければ妄想となりますし、幾ら先進的な手法を見つけようともそれに賛成できる者が居なければその発展は無かった物となってしまうでしょう。

    ホッブズは市政での知識の扱われ方にまで目を通していた鋭い人だったのかもしれませんね

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  2.  コメントありがとうございます。
     さまざまな知見が積み重なっていくことを望んでいますので、さらなる、新しい情報がありましたら、またのコメントをよろしくお願いいたします。

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