ボルツマンは、それが〝状態数〟の「自然対数」に比例することを証明しました。
S = Q / T = k ln W
ここに書かれた W がその〝状態数〟をあらわすものです。
ボルツマンがそれをどのように証明したかは、一般向けの解説書ではおおむね「割愛する」とされています。
〝負のエントロピー (negative entropy) 〟を 20 世紀の半ばに提唱したシュレーディンガーも、その著書で、
エントロピー = k log D
とした上で、
「この D という量を簡単に専門的な術語を使わずに正確に説明することはほとんど不可能」と書いています。
〔岩波文庫『生命とは何か』 (p.143) 参照〕
シュレーディンガーというのは量子力学の〈波動方程式〉を書いたひとで、「シュレーディンガーの猫」でも有名です。
そこでは、マクスウェルの〝魔物(デモン)〟ならぬ〝猫〟が、半死半生の憂き目にあいました。
一般書の説明ではボルツマンの証明は割愛するとしつつ、〝状態数〟の「自然対数」については、〝状態数〟が大きくなるとその「自然対数」も大きくなるということは、自明の理とされています。そうすると。
とりあえずは〝状態数〟がどのようなものかを考えれば良いということにして……。
ここで〝状態数〟とされているのは、〝場合の数〟のことになります。
それはたとえば、〔壁に突き当たる〕傾斜でボールを転がして、それが壁際に並ぶさまざまな順番の組み合わせを、さらに左右に区切って分けたときに可能な限り数えた、算数・数学に登場する〈場合の数〉のことです。
それを実際に確認するための、実験の手はずは、次の通りです。ボールの代りに、コピー用紙を使います。
といいつつ、チラシでもなんでもかまいません。
それを、6 つに切ります。大きさや形は気にしないことにします。
6 枚に切り分けられた紙の、それぞれに、A, B, C, D, E, F と、書いて、並べます。
その、並べ方が何通りあるかを数えたものを、〈組み合わせの数〉としましょう。
〈組み合わせの数〉は、自然数の「階乗」で計算可能とされています。
〈場合の数〉はそれにわり算が加わります。
自然数とは、1 をたし算したものです。
1 = 1
2 = 1 + 1
3 = 1 + 1 + 1
……延々と続く……
「階乗」は、その自然数を n としたとき、n! で、表現されています。
n が 3 ならば、
3! = 1 × 2 × 3 = 6
n が 4 ならば、
4! = 1 × 2 × 3 × 4 = 24
のように、n までの自然数を、全部かけていくものです。
6 枚の紙に戻って考えます。
A, B, C, D までが、順番どおりに並んでいて、E, F の順番だけが違っている場合は、
E, F
F, E
の、2 通りです。
A, B, C までが、順番どおりに並んでいて、D, E, F の順番だけが違っている場合は、
D, E, F
D, F, E
E, D, F
E, F, D
F, D, E
F, E, D
の、6 通りに増えました。
これは、2 枚の紙が入れかわる場合とくらべて、3 枚の紙だと、その 3 倍に増えたと、考えられます。
こうして試していくと、次はその 4 倍に、その次はさらにその 5 倍になっていくと、考えることができます。
このかけ算が、つまり、「階乗」と呼ばれるものなのです。
そういうわけで、6! は、
6! = 1 × 2 × 3 × 4 × 5 × 6 = 720
この計算は、エクセルで、
=FACT(6)
で、計算することができます。
――こういう説明の行き先が、そのうちに、
〝場合の数〟は〈平衡状態〉が最も多い
ということの解き明かしになっていくわけです。その〈平衡状態〉とはどういう〝場合〟であるのかは最後に出てきます。
ボルツマンは、気体の運動論で〝状態の数〟を考えています。
たとえば、ひとつの部屋を、同じ大きさに仕切って左右に分けたとき、
「左右の部屋にある分子の状態はどういう配分になる場合に最も多くなるか」
という分配の〈場合の数〉を、考えたわけです。
実験には、さらに、空き箱を、2 つ用意しましょう。お菓子の紙箱でも残っていればさいわいです。
箱を左右に並べて、6 枚の紙を左右に振り分けてみますと。
左右の箱それぞれに 6 枚の紙を配分する場合の数の考え方は、全部で 7 種類となります。
片方が 0 枚ならば、もう片方は 6 枚となって、それが 2 種類あります。
全部書き上げてみれば、
0 枚 と 6 枚
1 枚 と 5 枚
2 枚 と 4 枚
3 枚 と 3 枚
4 枚 と 2 枚
5 枚 と 1 枚
6 枚 と 0 枚
ということになります。
紙を並べたときの組み合わせの数から、さらに、
同じ組み合わせになっているものを差し引いて考えたのが〈場合の数〉です。
それは、
0 枚と 6 枚では、1 通りとなります。
6 枚と 0 枚でも、1 通りとなります。
1 枚と 5 枚では、6 通りとなります。
5 枚と 1 枚でも、6 通りとなります。
2 枚と 4 枚では、15 通りとなります。
4 枚と 2 枚でも、15 通りとなります。
3 枚と 3 枚では、20 通りとなります。エクセルでは、
=MULTINOMIAL(3,3)
で、計算できます。
これが〈場合の数〉となります。
考え方としては、6 枚のうち 1 枚しか左の箱に入れない入れ方が何通りあるかは、全体の紙の枚数と一緒になるということは、実際にやってみれば、すぐに理解できようかと思われます。ので、まずは考えるんじゃない、やってみるんだ、ということになります。
さらに、6 枚のうち 2 枚を箱に入れる入れ方は、
6 通り × 5 通り ÷ 2 通り = 15 通り
で、このとき、2 で割るのは、選ばれた 2 枚の紙が同じアルファベットの組み合わせになることがあるからです。
それは、〈場合の数〉では、〝同じ場合〟となって、あわせて、ひと通りと勘定されます。
――さて。
2 枚の紙の同じ組み合わせは、2 通りありました。
(例:A, B と B, A の組み合わせ)
入れる順番だけで考えると、同じ組み合わせになる数の 2 倍の入れ方が、あるということです。
同じ組み合わせになる場合は全部、あわせて、ひと通りと勘定されます。
そう考えると、6 枚のうち、3 枚を箱に入れる入れ方は、単位をはぶいて、
(6 × 5 × 4) ÷ (2 × 3) = 120 ÷ 6 = 20
つまり、紙を選んで入れていく手順が、いく通りあるかに加えて、
入れた結果が同じ組み合わせになっている場合も、忘れずに、考えればよいということになります。
(組み合わせの数)÷(同じ組み合わせになる数)=〈場合の数〉
となるわけです。
この計算は、2 枚と 4 枚の場合では、
2 と 4 をたした数の「階乗」を、2 の「階乗」と 4 の「階乗」をかけた数で割った答え、
(2 + 4)! ÷ (2! × 4!) = 15
2! = 1 × 2 = 2
4! = 1 × 2 × 3 × 4 = 24
6! = 1 × 2 × 3 × 4 × 5 × 6 = 720
6! ÷ (2 × 24) = 720 ÷ 48 = 15
と、同じになります。先におこなった、計算結果の、
6 通り × 5 通り ÷ 2 通り = 15 通り
と、計算している数字を比べてみてください。
――その比べた計算が、
6! を 4! で割って、さらに 2! で割っているのと同じことになっていることに気づきます。
そうやって計算してみると、3 枚と 3 枚で左右に分配した、
6! ÷ (3! × 3!) = 20
が、〈場合の数〉としては、最も多くなるという、計算結果がだんだんとみえてきます。
これを、A, B, C, D, E, F, G, H と、増やして考えても、左右が同じ数量になるように配分したとき、〈場合の数〉が最も多くなるのです。
つまり、〝放っておけば、そうなる場合が、最も多い〟という現実です。
この「同じ数に配分される」ことを、〈平衡状態〉と表現して、そうなる「確率」が最も高いと、ボルツマンはいったようです。
つまり〈平衡状態〉という謎の言葉は、「比べてみて似たような状態になっていること」を意味しているわけです。
この世界とか宇宙がだんだんと〈平衡状態〉になりやすいということは、〝確率的に可能性の高い状態になりやすい〟ということなのです。
それを、気体の分子の状態で考えて、ましてや〝証明〟など、とんでもない話であることが、にわかに知られます。
〔訂正 前〕
〈組み合わせの数〉は、自然数の「階乗」のわり算で計算可能とされています。
自然数とは、1 をたし算したものです。
〔訂正 後〕
〈組み合わせの数〉は、自然数の「階乗」で計算可能とされています。
〈場合の数〉はそれにわり算が加わります。
自然数とは、1 をたし算したものです。
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