2017年12月11日月曜日

アトラクタ 収斂する進化

 エントロピーが生成されるというのは、エネルギーが散逸する過程となる。
 散逸したエネルギーはもとに戻らないので、宇宙は平衡になっていくといわれる。平衡とは、一種の静止状態だ。
 イリヤ・プリゴジンは、平衡から遠く離れた条件下で秩序への転移が起こる動的状態を散逸構造と呼んだ。
 それはある与えられた系とその環境との相互作用を反映した状態であるとも混沌からの秩序(“ORDER OUT OF CHAOS” 1984) の 48 ページあたりに書かれている。
 続けてこう説明される。

平衡状態から、平衡を遠く離れた状態へと移行すると、繰り返しや普遍性から離れ、特異性と唯一性に至る。事実、平衡に関する法則は普遍的である。平衡に近い物質は、繰り返し同じ振舞いをする。これに対して、平衡から遠く離れた場合は、種々の散逸構造を発生させる可能性のある、多様な機構が出現する。例えば、平衡から遠く離れた場合、化学時計、すなわちコヒーレントで、リズミカルな挙動を示す化学反応が現れる場合が知られている。また、不均一な構造や非平衡な結晶を生ずるような自己組織化の過程も知られている。
〔プリゴジン(他)/著『混沌からの秩序』 伏見康治(他)/訳 1987年 みすず書房 (p.49)

―― その約 20 年後。
 サイモン・コンウェイ=モリスは、進化の運命(“Life's Solution” 2003) という著書で、収斂(しゅうれん)する進化を散逸系の運動になぞらえた。人類の進化が自然の法則性に導かれたものだという考えは、それ以前からあった。

簡単に言うと、収斂は、進化が膨大な組み合わせからなる生物の「超空間」をどのように進んでいくかを暗示してくれるのである。…… 収斂がなぜ起きるかというと、安定性の「島」があるからだ。カオス理論における「アトラクター」のようなものである。
〔『進化の運命』遠藤一佳・更科功/訳 2010年 講談社 (p.209)

 注釈では、Lee CronkThat complex whole: Culture and the evolution of human behaviour (Westview, Boulder, CO, 1999) を参照して、次の一節が引用される。
「私たちは、人類の文化のグレイト・アトラクターを探している。人類の文化をそちらにひっぱり、そうすることでその多様化にしばりを与えているまだ見ぬ塊を」(p.26)
〔『進化の運命』第10章460頁 注134 (p.514)

 そもそもダーウィンの「自然選択」が、現代進化論の基盤になっている。
 選択ないし淘汰は、個体に対して、行なわれる。その結果は偶然だという。生き物の個体はたまたま生き残ったり死んだりするのだ。
 環境への適応とは、複雑なネットワーク関係にあると、このごろの理論で説かれる。
 〈アトラクタ〉(attractor) というのは、複雑系の本に出てくる単語だ。
 井庭崇・福原義久/著複雑系入門の説明を参考にすれば次のようになっている。

 散逸系の運動は十分な時間がたつと特定の軌跡や点に落ち着く。この運動の過渡状態の後の安定した状態のことを「アトラクタ」という。
〔『複雑系入門』1998年 NTT出版 (p.69)

平衡点 (fixed point)
リミットサイクル (limit cycle)
トーラス (torus)
ストレンジアトラクタ (strange attractor)

の、4 種類があると書かれている。
 平衡点は、静止アトラクタや点アトラクタ、固定点ともいう。ある一点に収束するアトラクタとある。
 コンウェイ=モリスの、収斂する進化は、このアトラクタを想定しているものであろうか。

 いずれにせよ、高速で泳ぐ魚は、流線型にならざるを得ないだろう。
 生き物の形が、物理法則に従うという方向性をもつのは確かなのだ。
 生き物のエネルギーも、化学反応に従って、生み出され消費される。
 少なくとも生命の形に一定の制約があるのはまちがいないところだ。
 木は移動しないからある程度まで巨大化できても ……。
 大暴れする動物では、そうもいかないだろう。


収斂する進化のシステム
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/systems/attractor.html

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