2017年10月22日日曜日

共進化の拡張〈遺伝子と文化の共進化〉

〈遺伝子と文化の共進化〉というのは、学術的に提唱された研究テーマらしい。
サミュエル・ボウルズとハーバート・ギンタスの共著協力する種(2011)
日本語版(竹澤正哲監訳 2017年 NTT出版)29 ページで、
それは次のように説明されている。
―― ちなみに、この日本語版の副題は制度と心の共進化となってます。

 人間における遺伝子と文化の密接な相互作用を認識していたエドワード・ウィルソン、チャールズ・ラムスデン、ロバート・ボイド、ピーター・リチャーソン、ルイジ・ルーカ・カヴァリ=スフォルツァ、マーカス・フェルドマンといった人々は、1970 年代に遺伝進化と文化進化、そしてその相互作用に関する研究を独立に開始した。そこから生まれたのが遺伝子と文化の共進化 (gene-culture coevolution) と呼ばれるモデルである。

―― ということだ、が。
〈共進化〉というのはそもそも、
たがいに異なる種(しゅ)のあいだに発生する仕組みであって、
つまりは生き物の、種と種の関係性を示した
〝変化をともなう相互作用〟だと、認識していた。
そのもともとの意味と〈遺伝子と文化の共進化〉という成句が導き出された事情が、
チャールズ・ラムズデンとエドワード・ウィルソンの共著精神の起源について(1983)
第 5 章 プロメテウスの火」注 (1) に、けっこう詳しく述べられていた。
日本語版(松本亮三訳 1990年[新装版] 思索社)では、270 ページから。

 厳密な生物学上の用法では、共進化 (coevolution) という言葉は、第一の種の遺伝的進化が、第二の種の進化に反応して起こり、さらに第二の種が第一の種に反応して変化することをいう。つまり、二つの種のシステムが、ある程度一つの単位として進化するのである。二つの種が相互に依存しあっているときには、共進化は強く働く。たとえば、ミツバチは、花の特定の色や香りに対する自動的な反応を進化させた。ミツバチは、花を訪れ、その報酬に蜜と花粉をもらう。一方、花を咲かせる植物は、ミツバチを誘う色と香りを発達させた。その報酬は、異花受粉と生殖の成功である。われわれは、この用語を敷衍して、人類に見られる遺伝子変化と文化変化の互酬的効果をも意味させることにした。…… Durham は、共進化という言葉によって、遺伝子と文化が並行はするが別々に変化することを表現している。

―― もはや進化するのは、遺伝子をもつ生命体だけの話ではなくなっている。
なにしろ制度と心の共進化が研究される時代なのだ。
言語や技術がコピーミスの過程で、とんでもない〈突然変異〉を起こすのは昔から知られていることだった。
〈進化〉を〝生物に限定する〟用語だとこだわるのは、もう時代遅れなのだろう。
そんな時代だから〈遺伝子と文化の共進化〉以来、猫も杓子も共進化している。
いずれは猫と杓子が共進化する啓蒙書も期待できよう。
それでは〈文化〉の進化は、いつはじまったのか。
精神の起源について「第 5 章」では、
第三の課題:なぜ人間だけがというセクションの冒頭に、次のような記述があった。

 化石時代の地層には、ひょっとすれば同じことをもっと早く達成していたかもしれない、脳の大きな動物の遺残が散らばっている。……「恐竜人」とは、古生物学者デイル・ラッセルが、高い知能をもった、恐竜の想像上の子孫につけた名前であるが、恐竜人が、人間に一億年も先んじてテープを切ることも可能だった。
 しかし、その機会は訪れなかった。巨大な頭足類も爬虫類も絶滅し、代わって大きな脳をもった哺乳類が分化した。…… まだどれも、遺伝子=文化共進化の自己推進的巡環に入ってはいない。無数の個体が生まれては死んでいった何億世代もの間、何百万種もの動物が、考えうるあらゆる環境変化と機会に直面し、小進化の実験のなかで天文学的な数の遺伝子を切り混ぜていった ―― このすさまじく膨大な活動すべてが、やっとただ一つの種に閾をこえさせ、高い文化へと至る自家触媒作用を起こさせたのである。非常に特殊で強力な何かが、それまでの進化のシステムを抑制していたに違いない。
〔邦訳『精神の起源について』 (pp.204-205)

―― じつはこの引用文中の、最後の一文が、どうにも気になるのだ。
非常に特殊で強力な何かが、それまでの進化のシステムを抑制していたに違いない。
ということであるなら、その非常に特殊で強力な何か抑制がはずれてしまったので、
現在の人類の進化が、ようやく達成された、ということになるのだろう。
そうして〝進化の原動力〟に変化が起きた。進化のシステムの変更が実現したのだ。
人類進化の解明には、そういう、未知の力学が必要になるらしい、となると。
なんだかハリウッド映画のような途中経過である。

0 件のコメント:

コメントを投稿