2018年7月14日土曜日

三輪山: 神坐日向神社から初瀬山を望む

神坐日向神社 と 高宮神社 のこと


―― 三輪山の山頂にあるという神社についての資料を、まず引用紹介しておきたい。
○ その神社については〝『日本の神々』神社と聖地 第四巻 大和〟 (以下『日本の神々 4 』と表記)に収録されている。

神坐日向(みわにますひむかい)神社
 鎮座地 『延喜式』神名帳の城上郡「神坐日向神社〔大。月次新嘗〕」は現在、三輪山麓の本宮の少し南の通称「御子森[みこのもり]」に鎮座する神社とされているが、中世以来の諸書は三輪山の山頂「神[こう]の峰[みね]」に坐すとし(『大和志』『大和名所図会』『大和志料』、伴信友『神名帳考証』、『神社覈録』『大日本地名辞書』、志賀剛『式内社の研究・第二巻)、明治十八年九月、大神神社宮司松原貴遠も、内務卿山県有朋に対して「摂社神坐日向神社ト摂社高宮神社ト名称互ニ誤謬ニ付訂正御届」を提出している。

摂社神坐日向神社之義ハ延喜式内ニシテ大神神社ニ格別御由緒玉有之。古来本社神体山絶頂ニ坐シテ、其地名ヲ神[カウ]ノ峯[ミネ]ト云、又神[カウ]ノ宮[ミヤ]トモ称セシヨリ、維新後設テ高宮[カウノミヤ]社ヲ是ニ宛。而シテ日向神社ヲ高宮[タカノミヤ]ニ宛タルハ甚シキ非ナリ。謹テ検スルニ、神ノ峯殿内峯遷坐神坐日向神社幸魂奇魂神霊ト書セル標札アリ。裏ニ弘化三年歳閏十一月十五日祭主大神(高宮)朝臣和房前神主民部勝房ト書セリ。是維新前神坐日向神社タリシ確書ナリ。又高宮神社ハ地名ナリ。今も高宮垣内に接続シテ社地ノミ現在ス。是字ヲ俗御子森[ミコノモリ]ト称ス。
〔『日本の神々 4 』所収、大和岩雄「神坐日向神社」 (p.29) 〕

―― 大和岩雄氏は、この神社についての考察をさらに進めて、自著『神社と古代王権祭祀』に収録している。
 引用に用いるのは、『神社と古代王権祭祀』《新装版》〔 2009 年 2 月 20 日 白水社刊〕であるが、その初版は 1989 年に同社より発行されている。ちなみに上の『日本の神々 4 』は、同じく白水社から 1985 年の発行であった。

 従来の一般的見解は、天照太神と大物主神を、天つ神と国つ神の代表神として、机上で図式化したものであり、この図式では、三輪山の神は日神であってはならなかった。
 この発想は、明治政府が神道を天皇制国家の統治思想の中核に置いたとき、神社統制の基準となった。その結果、国つ神を祀る三輪山々頂に日神祭祀の日向神社があるはずはないし、あってはならないとして、『延喜式』の神名帳に載る「神坐日向神社〔大。月次新嘗〕」が、三輪山々頂にあることを認めなかった。だから、現在の本宮の南の高宮垣内(通称「御子森[みこのもり]」)の神社を日向神社、山頂の日向神社を高宮神社にしてしまったのである。これは、日神祭祀は伊勢皇大神宮を氏神とする天皇家のものと規定しようとする、神社行政にかかわる神道家たちの考え方であって、三輪山を祭祀してきた人々の考え方ではない。
…………
 信仰の問題を行政の次元で統制・整理しようとしたのが、神仏分離を強行した明治新政府の方針であった。その方針にもとづく内務省社寺局長の見解と、大神神社の宮司の主張は、かみ合わないのが当然で、「当局の見解が正しい」のではない。人々は三輪山々頂の神社を、日向神社として祀っていたのである。
〔『神社と古代王権祭祀《新装版》』 (p.55, p.57) 〕


神坐日向神社 から見た 初瀬山 の角度


 これまで、〔上記に神坐日向神社のある場所とされる〕三輪山の山頂から拝する朝日 ―― 初瀬山の山頂から昇る日の出を角度を、夏至のラインの基準として考えてきた。理由としては、初瀬山-三輪山-大神神社を結ぶラインが、ほぼ一直線上にあるということだけだ。
 今回は、その角度が、夏至の日の出の角度と一致するかどうかを計算式によって求めたいと思う。
 この地域の北緯は約 34.5 度であり、国立天文台編集の『理科年表』によれば、北緯 34 度の夏至の日の出は、北に 29.3 度の角度をもつ位置からとなるので、ここでの手順としては、計算した結果を単純に夏至の日の出を拝するその『理科年表』の数字と比較するということとしたい。

 計算方法として、円のなかに描かれる直角三角形の三角関数を使う。
 円の中心点から円周上にのびる線分は円の半径と同じ長さとなるのだけれど、そこに描かれた半径と同じ長さの線分を直角三角形の斜辺として考える方法である。円の中心点を水平に貫くラインを x 軸として、それと直角に y 軸を想定しよう。
 まずは、三角形の斜辺は理解しやすいように x 軸 y 軸ともに、正(プラス)の値になるように想定することが肝心だ。
 たとえば、水平ラインから 30 度の角度で、斜辺を設定すると、〔半径を r 、 x 軸 y 軸の値をそれぞれ ( x, y ) とすれば〕残りの二辺は半径の長さに対して、

x = cos30°
y = sin30°

の、計算式で求めることができるので、( r * cos30°, r * sin30°) の長さとなるわけだ。
 この場合、y 軸の値 ―― ようするに 30 度の角に対面する〔向かい合った〕1 辺の長さ ―― は、斜辺すなわち半径の 2 分 1 に等しくなる、ということを思い出した向きもあろうかと思われる。
 下に、JavaScript で計算する選択ボックスを設けたので、sin30° が、約 2 分 1 の値として表示されていることを〔手軽に選択を繰り返しつつ〕改めて確かめられたい。

北緯 35 度 での 東西の円周の長さ = 赤道一周 × cos35°

 ※ cos35° = COS(PI()/180*35) = 0.819152044
 ( Excel での計算式と値の例 )

 ● JavaScript による計算

cos35 ° = 0.8191520442889918
sin30 ° = 0.49999999999999994

 ※ ( 111,111 ㍍ × 0.819152 = 91016.797872 ㍍ )

 先に、緯度が 1 度違えば 111 km 違うという計算をした。
 その計算を振りかえる、なら ――

 鏡作神社は北緯 34.56154 度で、龍王山の山頂は北緯 34.56148 度である。
 赤道あたりで地球を 1 周する距離はおよそ 4 万㎞ でそれを 360 度で割ると、約 111.11 ㎞ なので、1 度違えば最大で約 111 ㎞ の距離が発生することになるのだが、この計算は縦に周回しても同じだ。
 (ここで「最大で」と断ったのは、経度の違いを距離に換算する場合、 1 度の違いは、北緯 34 度では、それよりも小さい値[あたい]になるからなのだけれども、このことは、北極に近づくにしたがって、1 周の長さが短くなっていくことを思い出せば理解できるだろう。)

34.56154 - 34.56148 = 0.00006 なので、誤差は、
111 km × 0.00006 = 111 m × 0.06 = 6.66 m ということになる。

 このように緯度に注目した場合の位置関係は、わずかに、6.66 ㍍ ずれているだけだということが計算できる。

―― と、いうことであったが、では、北緯 35 度の地点で、経度の 1 度の違いは、東西距離にしてどのくらい違うのだろうか。
 円周の全体が徐々に短くなっていく状態は、半径が小さくなる比率として計算することができる。地球を縦にまっぷたつにした断面の形は、ほぼ円形なのであるから、北緯 35 度では、最初の(最大の)半径に cos35° をかけたものを半径として計算した円周の値を用いればよいことになる。
―― それはつまり最初の円周に cos35° をかけた値と同じだ。
 ということであれば、北緯 35 度あたりで地球を東西に 1 周するときの 1 度あたりの長さは、およそ 4 万㎞ を 360 度で割った約 111,111 ㍍ に cos35° ≒ 0.819152 をかけて、約 91016.8 ㍍ という計算になる。
 1000 分の 1 度違えば、約 91 ㍍ の違いが発生することとなる。
 南北方向では、繰り返すが、1000 分の 1 度違えば、約 111 ㍍ の違いが発生するのである。

※ 上の計算式をもとに「三輪山-初瀬山」のラインについて、角度を計算してみよう。
 〔三輪山の山頂の座標は (34.53518, 135.86722) を用いる。〕
 〔初瀬山の山頂の座標は (34.54657, 135.89402) を用いる。〕

 まずは、初瀬山の山頂の座標の値から三輪山の山頂の座標の値を引いたうえで、見た目がわかりやすい数字になるように、両方に 1000 をかける。

34.54657 - 34.53518 = 0.01139
135.89402 - 135.86722 = 0.0268
0.01139 × 1000 = 11.39
0.0268 × 1000 = 26.8

 東西方向に 26.8 、南北方向に 11.39 の値が出たわけだが、東西方向の長さは、南北方向に対して、cos35° ≒ 0.819152 を考慮しなければならないので、

x = 11.39
y = 26.8 × 0.819152 = 21.9532736 ≒ 21.953

この長さの二辺をもつ直角三角形の角度を求めればよい。
 ( Excel での計算式 ) =ATAN2(21.953,11.39) * 180 / PI()

= 27.42189575

 ● JavaScript による計算(四捨五入して、小数点以下第二位まで求める)
  〔 = Math.round(Math.atan2(11.39, 21.953) * 180 / Math.PI * 100) / 100; 〕

= 27.42

 こうして計算結果が出た。東北東に 27.42 度の角度だった。
 この地域の北緯は約 34.5 度であり、国立天文台編集の『理科年表』によれば、北緯 34 度の夏至の日の出は、北に 29.3 度の角度をもつ位置からだったので、単純に日の出を拝するこの数字と比較するなら、やや浅い角度であると認められる。

※ 東西方向の長さに対して、cos35° ≒ 0.819152 の補正計算を加えない場合の角度は、東北東に 23.03 度の角度だった。

 角度の計算方法として、この考え方でいいと思うのだけれど、間違っていたなら、正しい計算式に訂正したい。
―― というのは、東西方向の長さに対して、cos35° ≒ 0.819152 の補正計算を加えないほうが、実測値に近いようだからだ。


 〇 纒向石塚古墳を基準点として、三輪山の山頂を望む方向が「立春」、三輪山の南側の峰(標高 326 m 地点)を望む方向が「冬至」の朝日にあたると、『神社と古代王権祭祀《新装版》』(p. 12) に書いてあった。
 ここでまたまた『理科年表』を参照すれば、北緯 34 度の

立春・立冬の日の出は、南に 19.2 度
冬至の日の出は、南に 28.0 度

の角度をもつ、位置からとなっている。
 次に用意したサンプルページの計算では、〔東西方向の長さに対して、cos35° ≒ 0.819152 の〕補正計算を加えない値が、それぞれ、

〈纒向石塚古墳〉から見る〈三輪山の山頂〉(立春・立冬)の日の出は、南に 19.68 度
〈纒向石塚古墳〉から見る〈三輪山の南側の峰〉(冬至)の日の出は、南に 29.97 度

の角度をもつ結果となっている。これは、参照数値と非常に近い値といえるだろう。
 ここでさらに考えるなら、東西に対して北半球の緯度のラインは徐々に北へ向かってカーブしていくので、北緯 34 度の真東の空も、遥か彼方では赤道の上空にあたることになる。
 そういうわけなので、スケールの程度によっては、真東という条件に対して、さらなる補正も考慮していかなければならないのだろうと思われる。

―― ちなみに、
 ※ 神武天皇陵から三輪山の山頂に向かう角度を、補正を加えて求めると、30.12 度であった。
 ※ 神武天皇陵から三輪山の山頂に向かう角度をこの補正なしで求めると、25.42 度であった。

 ※ あらためて詳しく見ていく予定なのだが、小川光三『大和の原像』〔大和書房、1973 年 1 月 25 日 (p. 40) 〕に、このラインが、夏至の日の出の観測ラインとして 30 度の角度で図示されている。

⇒ JavaScript を使って角度を計算するサンプルページ
http://theendoftakechan.web.fc2.com/eII/hijiri/aCoord.html


Google サイト で、本日、同じ内容のものを公開しました。
そこからもリンクしている、バックアップ・ページのほうがもう少し詳しく書いてあります。

三輪山: 神坐日向神社 バックアップ・ページ
http://theendoftakechan.web.fc2.com/eII/hijiri/miwa.html


三輪山: 神坐日向神社
https://sites.google.com/view/geshi-lines/hijiri/miwa

0 件のコメント:

コメントを投稿