2018年1月12日金曜日

カオスは ストレンジアトラクタを描く

 生物の一日の周期は、サーカディアン・リズム(概日リズム)と呼ばれる。
 リズミカルな周期運動が、生物の特徴でもある。
 化学反応的には、心臓の鼓動のような生命が刻む一定のリズムは、リミット・サイクルと呼ばれるアトラクタだ。
 リミット・サイクルは、エネルギーの投入で延々と同じ周期を描く、自己組織化の現象なのだ。
 山口陽子生物リズムと引き込みに、次の説明がある。

 生物リズムは、熱力学的には非線形非平衡開放系と呼ばれる条件で起きる「自己組織現象」であり、数学的には非線形振動、その中でも特に「リミットサイクル」と呼ばれるものである。
〔『生命現象のダイナミズム』所収 1984年 中山書店 (p.6)


 アトラクタ (attractor) は「引きつける」(attract) という意味からきた名詞だ。
 カオスのアトラクタである〈ストレンジ・アトラクタ〉とは、〝奇妙なアトラクタ〟ということになる。
 その、カオスアトラクタの図形は一定の範囲内におさまるけれど、決して ―― 永遠に ―― 同じポイントを通ることはないという。
 ヨシスケ・ウエダ(上田睆亮)の講演論文ストレンジ・アトラクタとカオスの起源では、その発見がこう述べられている。

 現在では、私が 1961 年 11 月 27 日にアナログ・コンピュータを用いて発見し採取したデータが、2 次元非自励周期系における最古のカオスの実例だといわれている。ほぼ同じころ、ローレンツ (Lorenz) 氏は 3 次元自励系でカオスを発見した。
〔『カオスはこうして発見された』所収 稲垣耕作・赤松則男/訳 2002年 共立出版 (p.27)

 講演の後半で、1978 年に上田睆亮非線形性に基づく確率統計現象」(電気学会論文誌 A 、第 98 巻、167-173 ページ)で報告されたストレンジ・アトラクタについて、
ダビッド・リュエル (David Ruelle) 教授がそれを「ジャパニーズ・アトラクタ」と命名してくれた」〔同上 (p.53)
ことが語られている。
 もっとも有名なカオスのアトラクタである「ローレンツ・アトラクタ」は、エドワード・ローレンツの発見になる。
 1963 年の決定論的な非周期的流れ(E.N. Lorenz, Deterministic nonperiodic flow, J. Atmospheric Sci., 20 (1963) 130-141.) が、カオス発見の論文として知られている。

 ローレンツの著書カオスのエッセンス(“The Essence of Chaos” 1993) の索引を見ると、ローレンツアトラクター(参照:バタフライアトラクター)」となっている。
 ローレンツはまた〝バタフライ効果〟の提唱者としても知られているが、このバタフライはカオスのアトラクタとのあいだに、どのような関連があるのか。
 どうやらそれはアトラクタの形状が蝶に似ているということらしい。

 バタフライ効果という言葉の起源がちょっとはっきりしない理由は、私が初めて詳しく研究したカオス的なシステムの特性にある。私はこのシステムにおいて、「ストレンジアトラクター」として知られる特殊な一群の状態を簡略化して図に表したのだが、その後、それが蝶の形に似ていることがわかり、まもなくバタフライとして知られるようになった。
〔『カオスのエッセンス』杉山勝・杉山智子/訳 1997年 共立出版 (p.12)


 カオス現象も、栄光の過去の観点からは新発見の事実が認められず、発見あるいは発表後しばらくは、冷遇される時期が続いた。
 1960 年代前半に、あいついで発見されていたストレンジ・アトラクタだけれども、ようやくその名で呼ばれるようになるのは 1970 年代初めのころらしい。
 その「非線形」の理論に〈カオス〉という言葉が使われたのも同じ 1970 年代になってからのことだ。
 李天岩(リ・ティェンイェン)とジェームス・ヨークの 1975 年の論文周期 3 はカオスを意味する(T.Y. Li and J.A. Yorke, Period three implies chaos, Amer. Math. Monthly, 82 (1975), 985-992.) で、〈カオス理論〉は有名になった。

―― カオスを典型例とする〈複雑系〉の理論はいまや百花繚乱ではあるけれど。
 よく知られているようにアインシュタインも終生、決定論的な世界観の枠組みにとらわれ続けた。新しい時代を築いた人間だって自身の成功体験にしばられかねないのだ。
 旧式な頭脳が権威ともなれば、それは新時代の足枷(あしかせ)として機能するほかはない。

 新しい枠組みは、すでに成功した権威者によってはただのエラーとみなされかねない歴史が、いまなお繰り返されている。
 科学のパラダイムシフトにも、進化と同じく人間の世代交代は必要ということなのだろう。


発見されたカオス理論
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/systems/chaos.html

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