2015年12月10日木曜日

失われた楽園 と 堕天使の伝説

 その名を、ラテン語で、“Lucifer” という

 ギリシャ語では、“phosphoros” で、ヘブライ語では、“heilel” だとある
 それは「光輝くもの」という意味の通常の名詞を示す。
 英語の “lucifer” はラテン語起原であり、「光を運ぶ者」が転じて、「明けの明星」を特に指し示す。

『聖書』の堕天使伝説は「創世記」を起源とし、外典「エノク書」に結実する。
そこに至る過程ではまだ、ラテン語〈ルキフェル〉の名は論外だ。

そもそも新約聖書は、ギリシャ語で記述されているが、
旧約聖書の言語はヘブライ語であり、その権威あるギリシャ語訳が
「七十人訳(しちじゅうにんやく)ギリシャ語聖書」と、いうことらしい。
『七十人訳ギリシア語聖書』という本邦初訳のシリーズもある。
ラテン語聖書は、他の言語であるそれらの原典からの、〔そのような〕翻訳聖書なのである。
そういう次第もあって、ラテン語〈ルキフェル〉が、ヘブライの天使の名であろうはずもない

 それがなぜ、魔王ルシファーとして世界に名を馳せたのか。
 ――伝説のルシファーとは、「智の天使」らしい。
 原典としての『聖書』を重んじつつも、ヘブライ語よりもギリシャ語聖書に拠ろうとし、なおそれよりも、みずからの日常言語であるラテン語で、知識ある権威によってその教説が形成されてゆく過程で、堕天使ルシファーは誕生する。
 みずからの言語を《神》の民の言語よりも、中心に考えてしまったせいだ。
 知の権威による誤読と、〔さらに〕また、それらの思い込みによる、追随が原因であるには違いない。
 ――いつの世も、同じなのだ。
 堕天使ルシファー伝説そのものが、その「人の高慢」に起因する〈神話〉なのだ。
 その、魔王誕生の経緯[いきさつ]を、これからしばらく見ていくことにしたい。

17 世紀、フランシス・ベーコンが繰り返し訴えたことにも見られるように、
高慢が標準装備された人類には、「楽園喪失」の神話が似つかわしい。
それは、責任転嫁の原理が適用されて、堕天使の神話を生み出した。

 あたりまえのことなのだが、悪いのはオレではなく、諸悪の根源なのである。
 我が国、日本には「東大生は自分の間違いを認めない」という、神話すらある。

――
『聖書』の「レビ記」には最初の〈スケープゴート〉の記述がみられる。
〈贖罪の雄山羊〉に民族の罪をなすりつけて、荒れ野に放つというものだ。
まったく、キリストといわれたイエスがそうしたように、全人類の罪を一身に背負って死ぬのである。
そしてその〈スケープゴート〉を受けとる〈魔神〉がアザゼルだといわれている。
『聖書』の「レビ記」には〈アザゼル〉の名が記されていないという見解がみえるのは、
みずからの言語である英語『聖書』を、中心に考えた結果であろうと、推測される。

そのアザゼルは、ルシファーよりも早く、堕天使の首長となり、
ダンテの『神曲』よりも先に、暗い地下の牢獄に縛りつけられている。

 そのことが書かれた「エノク書」の思想は「新約聖書」にも影響を与えたというが、やがて外典として姿を消した。
 それが、再発見されて、脚光を浴びることにもなる。

今回は、邦訳の「エノク書」を概観し、そして『聖書』に書かれたアザゼルの記述の該当箇所を、
日本語、英語、ラテン語、ギリシャ語、またその名称の記述部分に限定されるがヘブライ語の原典を、
引用文献として用いた。
 ↓

堕天使アザゼル
http://theendoftakechan.web.fc2.com/atDawn/Henoch.html

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