大熊座にある北斗七星が、天の極北の頂点 ――〈北辰〉―― に最接近したのは、どうやら今から 5,000 年くらい前のことのようです。当時は、竜座の α トゥバンが、〈北辰〉に 0.1° と迫った時期でした。
―― もしかして以前に調べていた、
旧約聖書の〈 暁の星 ― あかつきのほし ― 〉で紹介した「ヨブ記」とか、
「イザヤ書」の〈北の果なる集会の山〉というのは、
✥ その時代に、〈北辰〉に君臨した《竜座 α 星》を夜の闇のなかで、象徴としていたのかも知れません。
✪ その時代以降、天の北の宮に立った竜 ―― 天空の竜は、天の中心から少しずつ離れていったのでした。
〈旧約聖書 ⅩⅡ〉
『ヨブ記 箴言』
「ヨ ブ 記」並木浩一訳
(p. 87)23-9
北でも彼は身を隠しており一〇、彼を見ることができない、
私が南に転じても、彼とは出会えない。
一〇 北西セム族では神の在所は「北の山」であると考えられていた。その山は「ツァフォーン」と呼ばれ、イスラエルも神の山を示す言葉として採択した(二六 7)。この語の動詞の基本的語義は「隠す」であり、この意味で使用されている(一〇 13、二四 1)。神話に批判的なヨブ記作者は、ここではこの語の神話的な使用を避けている。
(p. 93)
26-7
北の山一六を空虚の上に張り、
地を何もないところに架ける一七。
一六 「北の山」ツァフォーン。23-9 の注 一〇 参照。
一七 神が空虚な空間の上に地を創造したとの考えは、旧約聖書中でここだけに見られる。
〔旧約聖書翻訳委員会/訳『ヨブ記 箴言』 2004年03月26日 岩波書店/発行
『聖書』口語訳
旧約聖書「イザヤ書」第一四章
(p. 961)一二
黎明の子、明けの明星よ、
あなたは天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ、
あなたは切られて地に倒れてしまった。
一三
あなたはさきに心のうちに言った、
『わたしは天にのぼり、
わたしの王座を高く神の星の上におき、
北の果なる集会の山に座し、
一四
雲のいただきにのぼり、
いと高き者のようになろう』。
一五
しかしあなたは陰府[よみ]に落され、
穴の奥底に入れられる。
〔日本聖書協会『聖書』口語訳 「旧約聖書」 1955年改訳〕
『聖書 新共同訳』
旧約聖書「イザヤ書」
(pp. 1082-1083)14. 12-14
ああ、お前は天から落ちた
明けの明星、曙の子よ。
お前は地に投げ落とされた
もろもろの国を倒した者よ。
かつて、お前は心に思った。
「わたしは天に上り
王座を神の星よりも高く据え
神々の集う北の果ての山に座し
雲の頂に登って
いと高き者のようになろう」と。
〔共同訳聖書実行委員会『聖書 新共同訳』 旧約聖書続編つき 2001年 日本聖書協会/発行〕
『新共同訳 旧約聖書注解Ⅱ』
「イザヤ書」 注 解
一四・三-二三 バビロンの滅亡
(p. 288)第三小節(一二-一五節)では、天の王座に着こうとしたバビロンが宇宙的表象によって描かれている。ここでも冒頭に「エーヒ」という詠嘆の間投詞が置かれている。ネブカドレツァルが建設した壮麗をきわめるバビロンの都と、神のようにそこに君臨した王の有様がここで神話的表象によって描かれている。《明けの明星》と訳されたヘブライ語「ヘーレール」は単に「輝くもの」を意味するに過ぎないが、英語ではこのイザヤ書の言葉から「ルーシファー」という神に逆らう反逆の天使、魔王という表象が生まれた(一二節)。一三節の《北の果ての山》は古代オリエント以来、神々の集う山とされている。ギリシア神話でこれに相当するのは、オリンポスの山である。詩四八・三の《北の果ての山》もこれと同じ表象である。一四節の《いと高き者》はヘブライ語で「エルヨーン」というが、申三二・八などでは、ヤーウェの称号とされ《いと高き神》と訳されている。
〔監修=高橋虔/B.シュナイダー 編集=石川康輔/木田献一/左近淑/野本真也/和田幹男『新共同訳 旧約聖書注解Ⅱ』 1994年11月20日 日本基督教団出版局/発行〕
The End of Takechan
◯ さて天の北の宮の、歳差運動のことでした。偶然にも手元に CD-ROM に収録された『広辞苑 第四版』があったりするので、「歳差運動」の意味を辞書でも確認しておきましょう。
『広辞苑 第四版』
さいさうんどう【歳差運動】
(precession)①傾いて回っているこまの心棒に見られる、すりこぎのような円錐運動。
②地球の自転軸が黄道面に垂直な軸の回りに行うすりこぎ運動。月・太陽の引力によって起る。周期は二万五八〇〇年。
◯ 簡便さのあまりに、「北極星」を調べてみると、次のように書かれていました。
『広辞苑 第四版』
ほっきょくせい【北極星】
(Polaris ラテン) 天球の北極に近く輝く星で、小熊座の首星。日周運動によってほとんど位置を変えないので、方位や緯度の指針となる。黄色で、光度二・〇等の星。子(ネ)の星。◯ はたまた「北斗七星」を調べてみると、北斗星に同じ、とあって、「北斗星」の項には次のように書かれています。
『広辞苑 第四版』
ほくとせい【北斗星】
(Dipper) (七つが並んで斗ヒシヤク状をなすのでいう) 北天の大熊座にある七つの星。斗柄に当る第七星を揺光といい、一昼夜に十二方を指すため、古来これによって時を測った。北斗。北斗七星。七つの星。✥ 『史記』では蒼龍(そうりょう)と記述されている青龍(せいりょう)は、中国では古来、東方の守護神でありますが、偶然にもおもしろいことには、遷移した《天空の龍》もまた、現在の北の空で北斗七星の東側に配されて、天の北極 ――〈北辰〉の周囲を巡っているわけなのです。
最初に書いた、竜座の α トゥバンが、天の北極に 0.1° と迫った時期だったというのは、福島久雄氏の『孔子の見た星空』〔1997年03月20日 大修館書店/発行〕の 14 ページに、挿図付きで説明されていた内容です。
⛞ その『孔子の見た星空』の内容が〈北辰〉とか、歳差運動のことにとても詳しく、かなり参考になりましたので、今後の記憶のためにも、次回はその冒頭の解説などを参照してみたいと思います。
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