有名なところで、ホタルの明滅が同期(シンクロ)するのは、個体同士の相互作用による〈引き込み〉の現象が働く結果だ。
どの個体が明滅のリーダーシップをとるかということは、もともと決まっていない。
そもそもリズムの中心となる個体が存在するわけでもない。
互いに影響し合うリズムの揺らぎが、いつしか壮大な交響曲を奏でているような自然の摂理だ。
―― 中村雄二郎『かたちのオディッセイ』に、そういう「引き込み現象」を説明して、次のようにあった。
波長の異なる振動同士は、実際には一挙に同調あるいは共振することはできない。そのときに必要なのは、一方の振動の波長を他の振動の波長に ―― あるいは両者を互いに ―― ある程度近づけた上で、そこに振動同士の引き込みの働きによってはじめて同調し共振するというプロセスである。
〔『中村雄二郎著作集』 第二期 Ⅰ『かたちのオディッセイ』2000年 岩波書店 (p.51) 〕
それに続く段落では、「この〈引き込み〉(英語では entrainment とか attraction とか呼ばれる)の現象について最初に着目したのは」オランダの自然学者クリスティアン・ホイヘンスで、「現代では、ノーバート・ウィーナー(『サイバネティクス』第二版、一九六一年、池原・弥永ほか訳、岩波書店)である」と、書かれている。
―― さらに、セクションを改めて。
さて、このような〈引き込み〉現象は、音叉同士のような線形振動の共鳴(共振)によっても起こるけれども、その場合の共振は、振幅や位相のずれが生じる不完全なものであり、完全な共振は、非線形振動(自励的振動のように含まれる諸要素が互いに影響し合う振動)のうちにしか見られない。後者の場合には、その振動は一定の倍率をもって他方の振動と重なり合い、それに対応する。このことはすでにウィーナーによっても指摘されたが、この非線形振動の〈引き込み〉という現象は、彼の手がけた問題範囲をこえて、リズムや形態の生成について広大な展望を切りひらくようになった。
〔同上 (pp.52-53) 〕
きっと、すこし探せば、平たい台に並べられた大量のメトロノームが、最初はてんでに揺れていたのに、次第に同期していくという、公開されたビデオが見つかるだろう。
その実験映像のポイントは、おおまかにいって、平たい台が揺れる場面にあるようだ。メトロノームを、ばらばらに作動させた時点では、メトロノームが乗っている平台自体は、動いてないはずだ。この平台は、実は上から吊り下げられていて、たとえば台を固定した留め具が外されると、メトロノームの振動でゆらゆらと揺れ始める。
この揺らぎが、非線形振動の〈引き込み〉現象につながる。
メトロノームの動作に相互作用の影響がではじめて、いつのまにか、すべての振動が完全に一致してしまうのである。
正確ではないかも知れないけど、この説明で、だいたいはあっていると思う。きっと、ビデオに、正しい説明がついていると思われるので、そちらで確認してくだされ。
ちなみに、〝メトロノーム 同期〟のキーワードですぐに見つかった映像では、メトロノームが乗っかっている台は、もともと固定されていないようでした。
自然な現象として、非線形振動はある。『かたちのオディッセイ』の、併記された補注では、人間の言動のリズムにも、相互作用が見られ、〈引き込み〉現象が起きているという動画分析の概説があった。
いわば心の機能も相互に〈引き込み合う〉現象を示すのだという。
創発する心のリズム
http://theendoftakechan.web.fc2.com/ess/attraction.html
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