2015年2月26日木曜日

アインシュタインが追求しようとしたこと



Wir müssen wissen.
Wir werden wissen. 
  
われわれは知らねばならない。
われわれは知るであろう。 
  
ヒルベルトの墓標 ―― 墓に置かれた碑文 ―― に刻まれた言葉です。


 アルバート・アインシュタイン  相対性理論関連の文献発表時期

1905年 特殊相対性理論 発表 
1915年 一般相対性理論 重力方程式の最終形 
1916年 『特殊および一般 「相対性理論」について』執筆 
1917年 『特殊および一般 「相対性理論」について』初版発行 
1938年 『物理学はいかにして創られたか』初版発行


 アインシュタインが何を知ろうとしていたのか。
 ―― ヒルベルトについての資料を詳しく見る前に、アインシュタインの相対性理論について文献を調べて見ました。

 

『神は老獪にして… ―アインシュタインの人と学問―』

  (P. 311)
 1915年11月25日に、プロシア科学アカデミーの物理-数学部会で、アインシュタインは、「最終的に一般相対性理論は一つの論理構造として完結する」という内容の論文を発表した[E1]。

 ⇀ (P. 342) 〔文献〕 E1. A. Einstein, PAW, 1915, p. 844. 
 ⇀ (P. 14) 〔引用文献について〕 PAW:プロシア科学学士院会報。 
 

■ この本では、【アインシュタインの日本講演】の記録 について言及してあります。■
 
 (P. 142)
 さて、アインシュタインがまだほとんど無名だった時期に戻り、マイケルソンがアインシュタインの特殊相対性理論にどのように反応したか、そしてマイケルソン‐モーリーの実験が、アインシュタインの1905年のあの理論の体系化にどんな影響を与えたかをたずねよう。
  (P. 148)
 最後に京都講演がある。それはドイツ語で話され、石原純によって日本語に訳された†[I1]。日本語原文の一部が英語に再訳された[O1]。この英語訳から数行引用する:(この訳文は原著『アインシュタイン講演録』東京図書(1971)p. 81より該当部分をそのまま引用する。)
  
 † 1912年から1914年まで、石原はドイツおよびスイスで物理学を学んだ。彼は当時からアインシュタインを個人的に知っていた。彼はまた多数のアインシュタインの論文を日本語に翻訳した。
  
 ⇀ (PP. 171-174) 〔文献〕

I1.  J. Ishiwara, Einstein Kōen-Roku, Tokyo-Tosho, Tokyo, 1977. 
O1.  T. Ogawa, Jap. St. Hist. Sci. 18, 73 (1979). 
I1.  石原純『アインシュタイン講演録』東京図書, 1971. 
  

『アインシュタイン講演録』

原著解題  〔1971年 4月 広重徹〕

 (PP. 195-196)
 アインシュタインは1922年(大正11年)の末、約1ヵ月半にわたって日本を訪れて各地で講演し、熱狂的な歓迎を受けた。本書はそのときの講演の内容を、通訳としてアインシュタインに同行した石原 純が紹介し、解説したものである。と同時に、日本における人間アインシュタインの横顔を伝える記録でもある。石原のいくつかの文章のほか、岡本一平の漫画とそれにそえた小文とが、生き生きとアインシュタインの風貌を描きだしている。
 [慶応大学での講演は、] ところどころを、原文のままでなく、石原の解説文でつないでいるのも、読者の理解を容易にするであろう。
  もうひとつ特に興味深い文章は、京都大学で学生を相手に語った「いかにして私は相対論を創ったか」である。

(七) 京都大学演説

=いかにして私は相対性理論を創ったか=

 (P. 81)
 しかし私がまだ学生としてこれらの思考を自分にもっていたときに、このマイケルソンの実験の不思議な結果を知り、そしてこれを事実であると承認すれば、おそらくはエーテルに対する地球の運動ということを考えるのは私たちの誤りであろうと直覚するに至りました。つまりこれが私を今日特殊相対性原理と名づけているものに導いた最初の路であったので、このとき以来私は、地球が太陽のまわりを回っているけれども、その運動は光の実験によっては認知し得ないものであることを思うようになったのでした。


『物理学はいかにして創られたか 上巻』

  (PP. 4-5)
 自然という書物を「読む」ことによって私たちはいろいろなことを知りました。~~。科学はその発達の途上にしばしば行詰りの来ることがありますが、そんな時「読む」ことは喜びと刺激との源泉となりました。私たちは随分多く自然界を読んでこれを理解するようになりました。しかしながら真の解決――そういうものがあり得るものとしても――はまだ程遠いのです。~~。一見完全と思われる理論も、更に「読ん」で行くと不完全なのがわかったことも非常に多いのです。その理論に矛盾する、あるいはそれでは説明の出来かねる新しい事実が現われて来るのです。読めば読む程、「自然の書物」の構成には非の打ちどころのないのがわかります。もっとも私達が進むにつれて真の解決は却って遠ざかって行くようにも思われますけれども。
  コナン・ドイルの名作以来、どの探偵小説にも大概は、探偵が少なくとも問題のある方面に関しては、必要なだけの事実をことごとく集めてしまう時期があります。これらの事実は多くの場合に、全く異様な、支離滅裂な、何の関係もないもののように見えます。しかし名探偵は、その時はもうそれ以上の調査は不必要で、ただ思索のみがその集められた事実を関係づけるものだということを知っているのです。~~。
 科学者が「自然という書物を読む」――まずい言い方を繰り返すことになりますが――にあたっては自分で解決を見出さなければなりません。というのは、他の物語を読む場合など性急な読者はよく書物の終りをめくって見るものですが、「自然の書物」を読む場合にはこんなことは出来ないからです。
  (P. 35)
 物理学の概念は人間の心の自由な創作です。そしてそれは外界によって一義的に決定せられるように見えても、実はそうではないのです。
  (P. 86)
 科学には、永遠に変らない理論はありません。理論によって予期せられた事実のどれかが実験で否定されるのはいつも見られることです。どの理論も最初にはそれが漸次に発展して凱歌を挙げますが、その後では急激な没落を経験するかも知れないのです。~~。科学の上で大きな進歩の見られるのは、殆んどいつも理論に対していろいろな困難が起り、危機に出遇った際にこれを脱却しようとする努力を通じてなされるのであります。私たちは、古い観念や、古い理論を検討してゆかなくてはなりません。過去にはそれでよかったものの、同時にその検討によって新しいものの必要を理解し、かつ前のものの成立する限度を明らかに知ることが大切です。

『物理学はいかにして創られたか 下巻』

  (P. 36)
 科学ではいつもそうである通りに、私たちは深く根づいてはいるものの、これまでしばしば無批判に繰り返されて来た偏見から離れることが何よりも大切です。
  (PP. 48-49)
すなわち、もし光の速度がすべての座標系で同じであるならば、動いている棒はその長さを変え、動いている時計はそのリズムを変えなければならないのであって、かつこれらの変化を支配する法則は厳密に決定されます。
 これだけの事柄には何も不思議はなく、また不合理もありません。古典物理学では、動いている時計も静上している時計も同じリズムをもち、動いている棒も静止している棒も同じ長さをもつと、いつも仮定していました。しかし光の速度がすべての座標系において同じであるなら、すなわち相対性理論が成り立つならば、私たちはこの仮定を犠牲に供しなくてはならないのです。~~。相対性理論から発展した所のその後の科学的進歩から見ますと、この新しい見方は一つの必要な果実としてのみ見なすべきではないことがわかります。なぜならこの理論の功績はそれ以上更に顕著であるからです。
  (P. 152)
 科学は新しい思想や、新しい理論を創るように私たちを強要します。それらの目的は、しばしば科学の進歩の道を阻むところの矛盾の牆壁を破壊することであります。科学におけるあらゆる本質的な思考は、実在とこれを理解しようとする私たちの企図との間の劇的な争闘において生まれて来ました。
  (P. 185)
 簡単のために、ここでは量子物理学以外のすべてを古典物理学と呼ぶことにしましょう。そうすれば、この意味での古典物理学と量子物理学とは根本的に異なっています。古典物理学は、空間に存在する対象の記述と、時間の経過によるそれらの変化を支配する法則を立てることを目的としています。
  (P. 186)
 科学は決して完結した書物ではなく、またいつになっても、そうでありましょう。重要な進歩はいつも新しい問題を起して来ます。どんな発展にしても、それは長い間には、新しいかつ一層深い困難を現わして来ます。


『NHKアインシュタイン・ロマン 第1巻 黄泉の時空から』

  (PP. 70-71)
 アインシュタインは一般相対性理論で、幾つかの予言をした。この理論の最大の特徴は、実験や観測で集められたデータを矛盾なく説明するために作られたものではないことだ。アインシュタインは何度も述べている、「経験をいくら集めても理論は生まれない」。データから帰納的に理論を構築する道はアインシュタインは採らない。そうではなく、揺るぎがないと考えた原理にのっとって、既成の理論に潜む形式上の矛盾を解決していくことが、彼にとっての理論形成だった。


『ペンローズの〈量子脳〉理論 心と意識の科学的基礎をもとめて』

「ツイスター、心、脳――ベンローズ理論への招待」 茂木健―郎の解説

  (PP. 271-273)
  
量子力学を最初に理解したのは誰か?

「ニュートンカ学を最初に完全に理解したのは誰か?」 
 というなぞなぞがある。その答えは、アインシュタインなのである。なぜならば、アインシュタインが相対性理論を構築して初めて、ニュートンカ学が前提にしていた「絶対時間」や「絶対空間」という概念の問題点、限界が明らかになったからだ。 一般に、ある理論を私たちが完全に理解したと言えるのは、その理論の限界、欠点が明示的に明らかになったときである。~~。
 誰も、まだ、量子力学を理解した人はいないのである。なぜならば、誰も、その不完全さをきちんと把握した人はいないからだ。私たちは、量子力学を超える理論体系を手に入れて、はじめて量子力学を理解することになるだろう。ニュートンカ学を最初に理解したのはアインシュタインだった。量子力学を最初に理解するのは、誰なのだろうか?
 

『あなたにもわかる相対性理論』

 (P. 91)
 ニュートンによって発見された重力つまり万有引力の法則は、地球上だけでなく、天体の運動をも正確に説明できる。だから、この法則を疑おうとする科学者は誰一人いなかった。
 しかし、アインシュタインは、ここにも疑いの目を向けた。
 そういう根源的な問いかけができる人は、実際にはほとんどいない。エルンスト・マッハはできたが、量子論の創始者であるドイツの物理学者マックス・プランクでも、できていたか疑わしい。


『相対性理論の矛盾を解く』

  (P. 67)
 現在の相対論に出てくる「ローレンツ収縮」は、ローレンツたちとはまったく違う考え方からアインシュタインが導いたものですが、先人に敬意をあらわして、同じ名前を使っています。


  

☆ 特殊相対性理論では、運動する物体は、運動方向に縮んで見え、また時間と空間の座標は、「ローレンツ変換」により相互に入れ替えが可能となっています。
 
◎ さて、アインシュタインの「特殊相対性理論」を数学的に整理したのは、アインシュタインの数学の師である、ミンコフスキー[*1]なのですが、アインシュタインの理論に「ローレンツ変換」を組み込んだのは、他ならぬそのミンコフスキーです。「時空」[*2]とは特殊相対性理論で「ローレンツ変換」の成立する「四次元時空(時空世界)」でありそれを「ミンコフスキー空間」ともいいます。 ローレンツ[*3]は、アインシュタインよりも先に「空間が縮む」ことを提唱した人物で、そこで「ローレンツ変換」が示されているのです。アインシュタインは独自の計算式で、ローレンツの理解と同じ結論に達したようなのですが、ミンコフスキーにとってはアインシュタインの計算式よりも、ローレンツ変換のほうが親しみやすかったのでしょう。ミンコフスキーは数学者であり、彼の友人にヒルベルト[*4] がいます。―― 『ヒルベルト』という本の「14 空間、時間そして数 (PP. 217-226)」にはミンコフスキーについての記述があります。 

[*1] ミンコフスキー、ヘルマン Minkowski, Hermann [1864.06.22-1909.01.12]
[*2] 時空 = スペース・タイム [英 space-time, 独 Raum-Zeit]
[*3] ローレンツ、ヘンドリク・アントーン Lorentz, Hendrik Antoon [1853.07.18-1928.02.04]
[*4] ヒルベルト、ダヴィッド Hilbert, David [1862.01.23-1943.02.14]
  

アインシュタインの『特殊および一般 「相対性理論」について』では《時空連続体》に言及してあります。「第17章 ミンコフスキーの四次元空間」の冒頭でも、それに触れてあります。
 ――また、第三版(1918年05月)に追加された、付記 「2 ミンコフスキーの四次元世界」では、ローレンツ変換について簡便な説明をもってして、稿を締めくくっています。


『特殊および一般 「相対性理論」について』

「第17章 ミンコフスキーの四次元空間」

  (P. 74)
 数学者でないものが〈四次元〉と聞くと、ある神秘的な戦慄、舞台の幽霊が生むそれに似ていなくもない感情に捉えられる。にもかかわらず、われわれの住む世界は四次元の時空連続体であるということほど、陳腐な言明もないのである。

付記 「2 ミンコフスキーの四次元世界」

  (PP. 159-160)
 ミンコフスキー的世界は、形式的に一つの四次元ユークリッド空間(虚数の時間座標をもった)と見なすことができる。すなわちローレンツ変換は、四次元〈世界〉における座標系の一つの〈回転〉に相当する。


 

【用語について】

『物理学辞典』三訂版

  (P. 2531, l)
 ローレンツ変換 [英 Lorentz transformation, 独 Lorentz-Transformation, ......]
  慣性系の間の時間・空間の座標変換。最も一般的には、座標軸の原点の移動、原点のまわりの回転、空間・時間のそれぞれの反転、時刻 t  = 0 で原点が重なるような一つの空間軸の方向への等速度運動、およびこれからの重ね合せである。~~。

『科学大辞典』第2版

  
 (P. 1615, r)
ローレンツ  [Lorentz, Hendrik Antoon] 〔1853~1928〕
 オランダの物理学者。物質の中に電子ありとして、光の屈折率と密度の関係、磁場と偏光の関係を論じ、ゼーマン効果の理論によってその存在を立証、金属電子論を基礎づけた。高速度で動く物体に関しローレンツ収縮やローレンツ変換を導いたが、エーテルの概念を捨てきれなかった。1902年ノーベル物理学賞受賞。
  (P. 1616, l)
ローレンツしゅうしゅく  ――収縮  [Lorentz contraction]
 特殊相対論によると、速度 v で運動する物体は運動方向に長さが | √1-( v  / c )2 | ( c  は光速)倍に縮んで見える。これをローレンツ収縮とよぶ。光速度不変の原理、またはそれから導かれるローレンツ変換によって説明される。
  (P. 1616, r)
ローレンツへんかん  ――変換  [Lorentz transformation]
 特殊相対論における時間・空間座標の変換。~~。一般に四次元ベクトルは同一の変換に従い、テンソルはベクトルの積の変換に従う。
  
 (P. 1468, l)
ミンコフスキーくうかん  ――空間  [Minkowski's space]
 1908年、H. Minkowski によって導入された時間と空間の四次元空間。時空世界と同じ。
  (P. 594, r)
じくうせかい  ――時空世界  [world of space and time]
 三次元の空間に時間を加えた四次元空間。1908年、H. Minkowski によって導入され、ミンコフスキーの時空世界ともいわれる。相対論では、事象はこの四次元空間の一点で、物理量や物理法則は四次元空間のスカラー、ベクトル、テンソル量で表される。



☆ 時空連続体 [ space-time continuum ] についての記述ですが、1916年のアインシュタインの論文でも、英訳で確認できます。またその次に揚げた、1909年の文献では、目次にその用語が用いられています。
 
(1916)
 by Albert Einstein, translated by Satyendra Nath Bose
 German original: Die Grundlage der allgemeinen Relativitätstheorie, Annalen der Physik 354 (7), 769-822, Online
 


 BY J. L. SYNGE
 H. Minkowski, Raum und Zeit [Physikalische Zeitschrift 10 (1909)104]
Chapter I.
 THE SPACE-TIME CONTINUUM AND THE SEPARATION BETWEEN EVENTS


◇ “Oxford English Dictionary” のデータでは、次の情報がありました。◇
 (こちらのサイトは、表示可能なタイミングとそうでない時とがあるようです。)

 B. n.
1927 S. Ertz Now East, now West viii. 117
  I've got quite drunk on theories about the space-time continuum.



アインシュタインの著書には、次のようにありました。

Geometrie und Erfahrung

by Albert Einstein
 (P. 20)
As to the part which the new ether is to play in the physics of the future we are not yet clear. We know that it determines the metrical relations in the space-time continuum, e.g. the configurative possibilities of solid bodies as well as the gravitational fields; but we do not know whether it has an essential share in the structure of the electrical elementary particles constituting matter.


☆ 「問題の発生」とは「前進の機会だ」、という話をヒルベルトがした、という問題について、次回。

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