2015年2月2日月曜日

〈巨人の肩の上に乗っている矮人〉

“Nani gigantum humeris insidentes”
柴田平三郎 『中世の春 ソールズベリのジョンの思想世界』 より

この言い回しは、ニュートンも使用した比喩である。
ということの根拠を過去の文献等に求める。――と、いうこと。

資料・参考文献の参照
 すなわち、つまりは今から「巨人の肩に乗る」。

◎Web
「巨人の肩の上」 Wikipedia

「参照文献はなぜ必要か : その目的と機能」


◎文献

〔特装版〕 岩波新書 評伝選
『ニュートン』
島尾永康[しまお・ながやす]/著
1994年06月20日 岩波書店/発行
《本書は 1979年06月20日に岩波新書(黄版)として刊行されたものです。》
「Ⅲ 巨人の肩にのって」
  2 フックとニュートンの光学論争
 (PP. 82-83)
 「~~。デカルトがやったことは、よき一歩でした。あなたは種々の点で、とくに薄膜の色の考察で多くを付け加えられました。もし私が、より遠くを眺められたとすれば、それは巨人たちの肩にのったからであります。………(以下略)」(フック宛、一六七五/六年二月五日)
  ~~。
 「巨人の肩にのって」の句は、ニュートンが使ったことで有名になったが、ニュートンが創り出した表現ではない。巨人の肩にとまる小人という比喩は中世以来のものである。われわれが先人よりも多くを見ることができ、遠くまで眺望できるのは、われわれの視力が優れているからでも、背が高いからでもない。巨大な先人たちの肩にのっているからである。そういう意味に使われた。文字通りにとれば、それはニュートンの非常な謙虚さの表現である。しかし果してそうだろうか。両者のこの手紙のやりとりは、和解とみてよいのだろうか。
 ~~。圧倒的な影響をうけたデカルトについても、「デカルトのやったことは、よき一歩だった」と軽くあしらったにすぎず、フックが、「種々の点で、多くを付け加えた」ことは認めても、それは薄膜だけのことだとする。

【この(往復)書簡の邦訳文献】

「知の再発見」双書 139
『ニュートン ――宇宙の法則を解き明かす』
ジャン=ピエール・モーリ/著
田中一郎/監修
遠藤ゆかり/訳
2008年08月10日 創元社/発行
「資料篇」
 (PP. 118-122)
  1 巨人たちの肩
フックからニュートンへの手紙
 ケンブリッジ、トリニティ・カレッジ
 敬愛なる友人、アイザック・ニュートン氏へ
  1676年01月20日  ロバート・フック
ニュートンの返信
  ケンブリッジ、1676年02月05日  アイザック・ニュートン


 ――「巨人の肩にのって」の句は、ニュートンが使ったことで有名になったが、ニュートンが創り出した表現ではない。
 とあるように、つまりその言葉は古くからの言い回しなのでした。

『引用する極意、引用される極意』
林紘一郎[はやし・こういちろう] 名和小太郎[なわ・こたろう]/著
2009年04月15日 勁草書房/発行
「第1章 学問における引用の役割」
3.引用と学問の発展 (P. 11)
 この点をより良く理解するために、「私が遠くを見ることができたのは、巨人の肩に立つことによってである」という文章に関する逸話を、紹介するのが有益でしょう。通常この言葉は、ニュートン自身が最初に発したと信じられていますが、坂本[2008]によれば、12世紀のシャルトルのベルナールに始まっており(P.169)、ニュートンはその後継者に過ぎないといいます。

【上記の根拠を「坂本[2008](P.169)」以外の文献に求める】

『中世の春 ソールズベリのジョンの思想世界』
柴田平三郎[しばた・へいざぶろう]/著
2002年05月20日 慶應義塾大学出版会/発行
  第Ⅰ部 文芸思想
第1章 〈巨人の肩の上に乗る矮人〉 ――ソールズベリのジョンの思想世界―― (PP. 13-14)
  序
 十二世紀西欧世界が生んだ、傑出した人文主義者ソールズベリのジョン(John of Salisbury, ラテン名 Johannes Saresberiensis, 1115/20-80)は齢四〇歳頃に執筆した『メタロギコン]』(Metalogicon, 1159)のなかで、若き日の自分の修業時代を振り返り、次のように述べている。
   シャルトルのベルナルドゥスはわれわれをよく巨人の肩の上に乗っている矮人に準えたものであった。~~。(Ⅲ,4.)
 〈巨人の肩の上に乗っている矮人〉(Nani gigantum humeris insidentes)――シャルトル学派の総帥ベルナルドゥスの語ったこととして、ジョンによって伝えられたこの言葉は、~~。

【『メタロギコン』の邦訳】

『中世思想原典集成 8 ――シャルトル学派――』
上智大学中世思想研究所|岩熊幸男[いわくま・ゆきお]/編訳|監修
2002年09月17日 平凡社/発行
「メタロギコン…………ソールズベリーのヨハネス」 (P. 581 ~)
甚野尚志+中澤務+F・ペレス/訳
 第三巻第四章
 (PP. 730-731)
 シャルトルのベルナルドゥスは、われわれはまるで巨人の肩に坐った矮人のようなものだと語っていた~~(訳註 302)。

(訳注 302)――――「巨人の肩に乗った矮人」の比喩はすでに、ヨハネスの師であったコンシュのギヨームが『プリスキアヌス註釈』(Glosae super Priscianum)の中でも述べている。ヨハネスはおそらくこの比喩をギヨームから学んだと思われる。だがギヨームの場合、それはシャルトルのベルナルドゥスが語ったものとはされておらず、一般に古代の著作家が同時代人より偉大であることを称えるために、この比喩を用いている。~~。


 かなり遠くまで見えてきたと思うので、ここでいったん「巨人の肩」から降ります。
 が――。

☆ ちなみに、巨人の肩の上の巨人、ニュートンは次のような言葉も残しているのです。

Isaac Newton
OPTICKS, 3rd ed. 1721
『光学』
ニュートン/著
島尾永康/訳
岩波文庫〔青 904-1〕
1983年11月16日 第1刷発行
 (P. 302)
疑問 1
 物体はある距離をおいて光に作用し、その作用によって光の射線を曲げるのではないか。そしてこの作用は(他の事情が同じならば)最小の距離において最も強いのではないか。


☆ ニュートンのこの言葉は、1919年5月29日の日食観測を行った、イギリスのエディントンによって証明されることになります。そのことをきっかけとして、アインシュタインにノーベル賞が授与される気運が高まります。――ようするに、このことは、よく言われているように、ニュートンの「古典力学」を完成させたのはアインシュタインであり、それは「一般相対性理論」に結実されたということのようです。

 この件でまた、さっそく巨人の肩によじ登りましょう。


【一般相対性理論とニュートンの関係について】

Subrahmanyan Chandrasekhar
“TRUTH AND BEAUTY Aesthetics and Motivations in Science”
c1987 University of Chicago Press
『真理と美 科学における美意識と動機』
叢書 ウニベルシタス 585
スブラマニアン・チャンドラセカール/著
豊田彰[とよだ・あきら]/訳
1998年07月28日 法政大学出版局/発行
 (P. 222)
 ニュートンは事実まさにこの点〔物体の作用により光線が曲げられること〕を『光学』の疑問1でほのめかしたのでありまして、彼の提案からは半分の値が導かれるでありましょう。


【アインシュタインに関して】

『科学の世紀を開いた人々 (上)』
「ニュートン」編集長 竹内均[たけうち・ひとし]/編
1999年04月10日 ニュートンプレス/発行
「日食と一般相対性理論とエディントン」 (PP. 348-349)
 アインシュタインがいうように、太陽のような重い物質の引力によって光が減速されてその進路が曲げられるとすれば、日食のときに撮った空の写真には、普通のときの位置とは少しちがう位置に見える星がいくつかあるはずである。たまたま一九一九年五月二九日に日食があり、それはこの推論を確かめる絶好の機会であった。イギリスはエディントンを隊長とする観測隊を西アフリカのギニア湾にあるリンシペ島へ送り、もう一つの隊をブラジルのソブラルへ送った。この二つの場所では、日食が五分以上つづくはずであった。観測の結果は、アインシュタインの推論を完全に証明した。
 世界大戦の直後に、それまではたがいに敵国だったドイツの科学者が考えた理論を、イギリスの科学者たちの観測が確かめた。一般の人にはとても理解できない抽象的で数学的な理論が、日食という天空でのドラマによって確かめられた。この演出は完璧[かんぺき]であり、人々は熱狂した。一九一九年一二月二日にケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジのホールで、一般相対性理論についてのエディントンの講演会が開かれた。~~。

〔同等内容の資料〕
『宇宙は科学の宝庫』 (PP. 157-159)
竹内均/編
2002年07月10日 ニュートンプレス/発行



【その他/問題解決の手法について】
「ビッグワード」という言葉があるようです。

『グロービズ MBA ビジネス・ライティング』
嶋田毅/監修
グロービズ経営大学院/著
2012年03月08日 ダイヤモンド社/発行
 (PP. 65-66)
◎――ビッグワードを避ける
 ビッグワードとは、何か正しいことを言っているようで、実際にはほとんど中身がない言葉である。~~。
 ~~。中身がないので、「具体的にどういうことですか?」と突っ込まれると答えに窮してしまう。口の悪い人などは、ビッグワードのことを「思考停止ワード」と呼ぶこともある。

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