2015年1月27日火曜日

EMERGENCE 創発/備忘録

あるいは「巨人の肩に乗る」


◎「創発」という言葉についての参考資料

『複雑系入門 ――知のフロンティアへの冒険――』
井庭崇[いば・たかし] 福原義久[ふくはら・よしひさ]/著
1998年06月19日 NTT出版/発行

Chapter 1
『複雑系』とは何か?
 (P. 8)
1.4 創発
 「複雑系では創発現象が起きている」といわれる。ここで、現在「創発」という言葉が二つの異なる意味で用いられているということに注意が必要である。一つはシステム論の分野で使われてきた「創発」、そしてもう一つは人工生命分野における拡大解釈の意味での「創発」である。


◎「創発」という日本語の普及状況など

岩波書店『広辞苑』
新村出[しんむら・いずる]/編
1998年11月11日 第五版発行
 (見出し語に項目なし)
2008年01月11日 第六版発行
 (P. 1630,a-b)
そうはつ[サウ…]【創発】進化論・システム論の用語。生物進化の過程やシステムの発展過程において、先行する条件からは予測や説明のできない新しい特性が生み出されること。

三省堂『大字林』
松村明[まつむら・あきら] 三省堂編修所 /編
1988年11月03日 初版発行
1995年11月03日 第二版発行
 (見出し語に項目なし)
2006年10月27日 第三版発行
 (P. 1457,b)
そうはつ[そう―]【創発】〔emergence〕 システム中で、上位のレベルには備わっていなかった機能が、下位のレベルが機能することで発現すること。個の行動によって、全体の秩序が規定されること。人工生命や人工知能の分野で重要となる概念。

培風館『物理学辞典』
物理学辞典編集委員会/編
1984年09月30日 初版発行
1992年05月20日 改訂版発行
 (項目なし)
2005年09月30日 三訂版発行
(c) 物理学辞典編集委員会 2005
 (P. 1244,r)
創発 [英 emergence] 多くの要素からなるシステムにおいて、部分あるいは単一の要素には見られない挙動や機能が現れることを創発といい、そのようなシステムの特性を創発性(emergency)という。(以下略)

岩波書店『岩波 生物学辞典』
山田常雄・前川文夫・江上不二夫・八杉竜一/編
1960年03月10日 第1版発行
 (P. 612,l)
ソーハツテキシンカ 創発的進化 [英 emergent evolution 仏 evolution emergent 独 auftauchende Evolution] ゲシュタルト心理学の原理を進化の理論に適用したもので、C. Lloyd Morgan (1922) の造語。また一面、Hegel の弁証法を自然界に適用したものともいわれる。個々のものの結合によって新しい性質や状態が現われる(水素と酸素が化合して水ができる場合など)ことを基礎として、物質から生物へ、下等な生物から高等な生物への進化を、意識の発生まで含めて、説明しようとする。Morgan についで、Jennings (1927) 、Malisoff (1939, 1941) 、Ablowitz (1939) 、Lillie (1945) 、Sinnott (1950) などが、これについて論じている。これらの創発論者(英 emergentist)は、それぞれ考え方に多少の相違があるが、多くの場合、emergence のもう一つの意味である‘既存のものの展開’という観念も包含されており、創発の基礎には、地球上の原初的な物質のうちにすでに生命へ向かっての漠然たる方向性があるか、ないしは生命の創発する物質は物理学や化学の規定するものとちがっているという仮定がおかれている。

岩波書店『岩波 生物学辞典』第5版
巌佐庸・倉谷滋・斎藤成也・塚谷裕一/編
2013年02月26日 第5版発行
 (P. 831f,r)
創発的進化 [emergent evolution] 物質から生物へ、体制の単純な生物から複雑な生物への進化を、意識の発生まで含めて説明しようとする説。個々のものの結合によって新しい性質や状態が現れる(水素と酸素が化合して水ができる場合など)ことを基礎とする。ゲシュタルト心理学の原理を進化の理論に適用したもので、C. L. Morgan (1922) の造語。また一面、G. W. F. Hegel の弁証法を自然界に適用したものともいわれる。Morgan についで、H. S. Jennings (1927) 、W. M. Malisoff (1939, 1941) 、R. Ablowitz (1939) 、R. S. Lillie (1945) 、E. W. Sinnott (1950) らが、これについて論じている。これらの創発論者(emergentist)は、それぞれ考え方に多少の相違があるが、多くの場合、emergence のもう一つの意味である「既存のものの展開」という観念も包含されており、創発の基礎には、地球上の原初的な物質のうちにすでに生命へ向かっての漠然たる方向性があるか、ないしは生命の創発する物質は物理学や化学の規定するものとちがっているという仮定がおかれている。(⇒人工生命)

『生物学辞典』(c) 2010
石川統・黒岩常祥・塩見正衞・松本忠夫・守隆夫・八杉貞雄・山本正幸/編
2010年12月10日 東京化学同人/発行
 (P. 778,l)
創発 [emergence] ⇒階層論
 (P. 191,l)
階層論 [hierarchial theory] 生物現象は、最終的に物理化学的法則にまで還元して説明しうるとする立場に対して、生物世界にみられる各階層には独自の法則が成り立つとする考え方。分子、高分子、細胞小器官、細胞、組織、器官、個体、個体群、社会と階層が上がるごとに、下位の階層を律する法則では説明できない現象が現れる。このように、階層を上がるごとに新たな性質が付与されることを創発(emergence)とよぶ。(⇒還元論)


『有斐閣 経済辞典』
金森久雄・荒憲治郎・森口親司/編
3rd.
1998年01月20日 第3版発行
 (関連項目なし)
4th.
2002年05月30日 第4版発行
 (P. 756,l)
創発的戦略 emergent strategy
 組織行動の過程で、創発的に形成される戦略のこと。(以下略)
創発特性 emergent property
 個々の要素だけを取り出して考察した場合には見られなかった属性が、諸要素の相互作用を通じて現出し、特異なマクロ的な現象を生み出すことをいう。たとえば、砂粒がつくる砂山の形やその崩落現象など。景気変動などの経済現象もその例にあげられるだろう。創発性を示す系のことを複雑系と呼ぶ。歴史的過程のなかで、予想されない経済形態が出現することも、創発的現象と見られるかもしれない。 (参)複雑系、複雑性
5th.
2013年12月20日 第5版発行
 (P. 764,l)
創発的戦略 emergent strategy
 組織行動の過程で、創発的に形成される戦略のこと。(以下略)


◎「創発」という言葉の初見など

『生命起源論の科学哲学 ――創発か、還元的説明か――』
クリストフ・マラテール/著
佐藤直樹[さとう・なおき]/訳
2013年01月18日 みすず書房/発行
"LES ORIGINES DE LA VIE"
'Emergence ou explication reductive'
 by Christophe Malaterre
First published by Hermann Editeurs des sciences et des arts, 2010
Copyright c Hermann Editeurs des sciences et des arts, 2010

第四章 創発概念の発展の核心をなす生命
 (PP. 97-98)
     (1)創発的現象としての生命――十九世紀からの遺産
 創発概念を最初に言い出したのは、イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルとされる(たとえば、McLaughlin 1992; Fagot-Largeault 2002 などを参照)。

 ~、これら要素が個別にもつ作用の単純な総和は、生体がもつ機能に到底及ぶものではない(Mill [1843] 1866、第一巻第三部、第六章、一節、407-408)。

「創発」という言葉を導入したのは、ルーウィスの業績とされる[1](Stephan 1992; Fagot-Largeault 2002)。 [1] これは、科学哲学において、「創発的」という言葉を専門的に用いた最初である。

 ~、私はこの効果を創発的と名付けることを提案する。(中略)創発したものは、その諸成分と共通の性質をもつわけでなく、成分の全体にも成分の違いにも還元することができないという意味において、その諸成分とは似ていないのである(Lewes 1875, 412-413 強調は著者)。

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