2020年7月24日金曜日

《光の屈折の法則》の三角関数計算

 西暦 1600 年代、17 世紀のヨーロッパは、数学による科学革命が進んだ時代でもありました。
 イタリアのガリレオ・ガリレイは 1605 年に〈落体運動の法則〉を発見し、1609 年には自ら改良した「屈折望遠鏡」で天体観測を行って、翌 1610 年に『星界の使者』を著しました。
―― 望遠鏡の発明による驚天動地の科学的成果はその後、屈折する光についての研究へと進展していきます。
 1620 年頃、オランダのスネルは《光の屈折》について、実験的に得た結果を、作図的な方法で確認したとされます。
 それを三角関数の法則の形で発表したのは、「解析幾何学」を構築したフランスのデカルトなので、屈折の法則はフランスでは〈デカルトの法則〉もしくは〈デカルト・スネルの法則〉という呼称で流布していると風聞します。
 日本では屈折の法則は〈スネルの法則〉と呼ばれています。
 オランダのホイヘンスは屈折の法則を 1690 年の著書で〈正弦の法則〉と書き残しました。
 その著書において、光の反射・屈折の仕組みを《光の波動説》をもとに解説したホイヘンスの研究成果は、現在も〈ホイヘンスの原理〉として学ばれています。

 ◯ 光の性質について、和訳されたホイヘンスの著作から抜粋しておきます。
科学の名著 第Ⅱ期10 『ホイヘンス』
原亨吉/編〔1989年03月30日 朝日出版社/発行〕
「光についての論考」
第一章 直進する光線について
 (pp.204-205)
〔光は音とほとんど同様に球状に拡がること〕
〔8〕音は、目に見えず手に触れることもできない物体である空気を介して、音源から四方に、空気中の一点から次の点へと継起的に進む運動によって拡がって行くことを我々は知っている。また、この運動はすべての方向に等しい速さで拡がるので、球面のような形をなすはずであり、この球面が膨張しつづけ、やがて我々の耳を打つに至ることも知っている。さて、光が発光体から我々の所まで到達するのもまた、この両者間に存在する物質に引き起こされた何らかの運動によってであることは疑う余地がない。というのは、すでに見たように、光の伝播は一方から他方へ物体が移動することによっては起こりえないからである。もしさらに、すぐ後で吟味するつもりだが、光がその進行に時間を要するとすれば、物質に引き起こされるこの運動は継起的であり、従ってそれは音の運動と同様に球面ないしは球状波面として拡がることになるであろう。私がそれを波面★14 と呼ぶのは、水の中に石を投げ入れたときに見られる円い継起的な拡がりを見せるあの波に似ているからである。ただし、水面の波は原因を異にしているし、平面的な運動に過ぎない。
 ★ 14 ―― 原語は onde 。「波」と訳すと水面の波のような山と谷の連続を想像するので「波面」と訳す。ホイヘンスによる光の諸現象の説明では常に運動の最先端としての波面が問題となる。
 (p.217)
〔光の拡がり方についての私独自の説〕
〔38〕 これらの波面の伝播については、まだ考えるべきことが残っている。すなわち、波面がその中を拡がって行く物質の各々の粒子は、その運動を、発光点から引かれた直線上にある隣接する粒子にだけ伝えるのではなく、必然的に、その粒子に接触しその粒子の運動を妨げる他のあらゆる粒子にも与えるのである。従って、必ず、各々の粒子の周囲にその粒子を中心とする波面が形成される。

※「粒子を中心とする波面」:「個別波面★39」の訳註 (p.219) で、次のように解説されています。
 ★ 39 ――「個別波面 onde particulière 」は、普通「素元波 elementary wave, Elementarwelle, onde élémentaire 」と呼ばれているものである。

 ◎ さて、ここで語られる「波面 (onde) 」というのは、たとえば、池で見られる〝波紋〟―― 輪のように広がる波の模様 ―― を考えた場合、その波の〝山同士〟ないしは〝谷同士〟を結んだ線のことになるわけです。ただし〝山〟とか〝谷〟とかに限らず〝波の位相〟が同じ場所をつないだ面が「波面」と呼ばれるのです。
 ▸ 光源が遠くに想定されていると〝球面状に広がっていく波の進行方向に対して垂直な面〟となります。
 また現在では〈ホイヘンスの原理〉と呼ばれるこの説を便宜的に二次元(平面)で表現する際も、「この波面の中心は極めて遠いと想定しているので、この部分は直線だとみなしてよい」(p.233) と説明されています。
 ▸ そういうわけで入射光波面は、座標平面では光の進行方向を表わす直線と、それに垂直に交わる直線を使って表現されます。
 ホイヘンスの原理で描く〝反射角〟と〝屈折角〟
 ⛞ ダイヤモンドの屈折率 : n = 2.42 として作図 ⛞
  時刻 t0 における、a b の距離を 10 分割した座標から、光がt の間に進んだ距離を描く。
(※ この距離は、いわゆる個別波面=素元波の到達距離で、簡便のために円の全体を描線します)
  時刻 t1 における、a b の距離を 10 分割した座標から、光がt の間に進む反射光を描く。
(※ この素元波は、入射角・反射角のラインを添えて、空気中への広がりを半円で描きます)
 ⇒ 反射角の傾きに直交して描かれるラインが、時刻 t2 における反射光の波面 s となります。
 ◈ この図では、素元波の先端に円の接線として描かれるラインが、波面となります。
 ◈ r は、時刻 t2 における屈折光の波面
  時刻 t1 における、a b の距離を 10 分割した座標から、t の間に進む屈折光を描く。
(※ 屈折光の素元波は、入射光のラインとともに、ダイヤモンド内部への広がりを半円で描きます)
 ⇒ 屈折光に直交して描かれる〔接線の〕ラインが、時刻 t2 における屈折光の波面 r となります。
 ▣ 記号説明
 a 入射光のラインその 1
 b 入射光のラインその 2
 c 空気中の光速
 c´ = cn ダイヤモンドの光速
 w0 時刻 t0 における波面
 w1 時刻 t1 の入射光の波面
 w2 時刻 t2 の入射光の波面
 s 時刻 t2 における反射光の波面
 t 微小時間(時間の幅)
 ▸ t0 + ⊿t = t1
 ▸ t1 + ⊿t = t2
 ◎ 下の図に、計算のための記号などを追加しました。

► 微小時間t を、光が 1 波長進む時間として考えます。
► 空気の屈折率を、1.000292 ≒ 1 とします。
► ダイヤモンドの屈折率を、n とします。
▸ ct = 空気中を光が 1 波長進む距離
▸ c´⊿t = ダイヤモンド中を光が 1 波長進む距離
▸ λ1 = 空気中の光の波長
▸ λn = ダイヤモンド中の光の波長
▸ 真空中の光の波長 = λ
▸ 空気中の光の波長 = λ  ∕ 1 = λ1 = ct
▸ ダイヤモンド中の光の波長 = λ n = λn = c´⊿t
► 反射光と屈折光の 1 波長の到達距離を、点 A を中心にした、半径 λ1 λn の半円で示しています。
∠PAB = θ1
AB sinθ1 = PB = ct = λ1
なので、
α = AB
として、
λ1 =    λ    = α sinθ1 
 
1
∴  α =   λ
 
 sinθ1 
また、
∠QAB = θ2
AB sinθ2 = AQ = c´⊿t = λn
なので、
λn =    λ    = α sinθ2 
 
 n 
∴  α =   λ
 
 n sinθ2 
 ⛞ 通常用いられる方程式では、上記の屈折率 1 n に対して
1 → n1
n → n2
という記号を用いて、
α =   λ   =   λ
   
 n1 sinθ1   n2 sinθ2 
∴  n1 sinθ1 = n2 sinθ2
と、記述されています。

 今回も同様に JavaScript によるプログラムを、このページ内に同梱しています。
―― また屈折する光についての各種資料を参照しつつ、JavaScript の見本をテキスト化して掲載したページを、以下のサイトで公開しています。

光の屈折・スネルの法則
http://theendoftakechan.web.fc2.com/eII/hitsuge/integral/Snell.html

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